向かいの席で作戦記録の編集をしていた後輩が、サッと頬を赤らめた。
何かあったのかと声をかければ、わずかに気まずそうな顔をする。モゴモゴと口籠った後、彼は端末をこちらに向けた。画面の中で流れているのは先日撮ったばかりの映像だ。1~2分ほど早戻しされた記録の中には、防衛を終えドクターの元へと帰還するオペレーター達が映っている。不安定に揺れ動いていることから記録用ドローンを誰かが手に持っていることが窺えた。先日故障した一台を、近くにいたオペレーターに回収してもらったことを思い出す。
どうにも酔ってしまいそうな映像の中、一際目立っているのは青空にたなびく旗だった。旗手の掲げる旗である。テンニンカにせよエリジウムにせよサイラッハにせよ、作戦が終わった後も、旗手はこうして旗を掲げていることが良くあった。帰還するオペレーター達の目印になるようにと、誰に頼まれたわけでもなく、彼らは自分の意思で己の旗を掲げ続けた。
映像に映っていたのはエリジウムだった。旗手の中でも背の高さから一際目立つ男である。
やがて彼の顔が視認できるくらいの距離に近づいた時、ふとエリジウムの視線が顔がこちらを向いて、カメラの持ち主に気付いたのか、わずかにその目が見開かれた。
「おかえり、ブラザー!」
その様を、何と言おう。
青い空もたなびく旗も、全てが味気なく感じるような光景だった。まっすぐな好意というものをひとつの形にしたら、こうなると思わせるような表情であり。
思わず喉から唸り声が出た。
「どうしましょう。これ」
後輩からの問いかけに、少しばかり考えた後、とりあえずこの部分だけ消してくれ。と指示をする。
「この表情は、あの掲げられた旗みたいに不特定多数の誰かに向けてのものじゃないから」
作戦記録の中にあるのは不適切だよ。と告げて、己の赤くなっただろう顔を、手でパタパタと仰いでみせた。