賀風といると、吾妻はたびたびすれ違いを感じてしまう。今も吾妻は明日に備えて早く眠りたいのだが、賀風は吾妻の股ぐらに顔を突っ込んでいる。マスクの下で彼が口に咥え込んでいるのは吾妻の性器だ。ぐぷぐぷと空気を含んだ水音が静かな寝室に響いている。場合によってはひどく興奮する光景だが、あいにくメガネを外しているために、乱視と近視の混じった吾妻はぼんやりとした銀色が己の下半身あたりで動いていることしか分からない。さらには寝不足の上に酒も飲んでいるので、舌が性器を這う直接的な刺激すら、ともすれば睡魔に塗り替えられそうだ。
「ぷは」
賀風が性器から顔を上げた。しかしそれも一瞬で、すぐにマスクの下の口に性器をおさめると、今度はちゅっちゅと軽く音を立てて先端を吸っている。吐息が下生えを揺らしてくすぐったい。
まがいなりにも恋人なので、吾妻も必死に己を求める賀風を健気と思わぬわけではない。
けれどもタイミングというものがある。
吾妻は眠気を散らすように息を吐いた。
「ひろどの?」
吾妻の性器を口に咥えたまま、賀風が吾妻の名前を呼んだ。唾液でテラテラと光るコンドームの色が、ぼやけた視界の中で唯一鮮やかさを保っている。
先に風呂に入っていて良かったな。と吾妻は思う。吾妻は風呂に入ってから性行為を行う派だが、賀風はあまり吾妻の汚れを気にしていないきらいがある。さらには生来の世話焼き気質が性行為でもおかしな方向に向いていて、奉仕をしたがるので厄介だった。
吾妻はぼんやりとしながら賀風の頭を撫でた。
「ひろどの?」
賀風が吾妻の名前を呼ぶ。吾妻は眠気に苛まれながら口を開いた。
「それ、楽しい?」