なんでもない朝の話
サムの実家に訪れた時のことだ。バッキーは珍しく日が高くなってから起床した。窓の外に見える町は昨日のパーティの名残を感じさせながらも、穏やかな日常を育んでいる。
——最新の研究で、ハヤブサはタカ類よりインコ類に近い進化系統にあることが分かりました。
スクールへ行ったAJとキャスが付けっぱなしにしたテレビから、そんな言葉が流れ出した。見れば子供向けの動物番組で、鳥の進化について特集している。ぼんやりと画面を眺めていれば「バック」と背後から声がかかった。
「何か興味を引くことでもあったのか?」
「少しな」
サムの両手から朝食の皿を受け取り、軽く頬に口付ける。おはよう。と告げれば、同じ言葉を返された。
「サラは」
「爺さんが寝てる間に仕事に行った。寝坊だぞ」
「ここまでバイクで来たんだ。疲れて当然だろ」
「アイスケーキもすっかり溶けるくらいだからな」
サムの言葉に、バッキーは思わず眉根を寄せた。バッキーがアイスケーキを溶かしたのはこの男がキャプテン・アメリカに就任してから二度目のことだ。睨み付ける男に笑ったサムは、テレビを一瞥し「最近キャスがハマってる番組だな」と言った。
「お前が子供だった頃から、随分と研究が進んでるだろ」
「そうだな」
いつまでもサムの甥っ子達のように拗ねているわけにもいかない。バッキーはサムの言葉に素直に頷いた。鳥に興味を持っていたとは言い難いバッキーだが、それでも授業で描いたことがある。
あの頃は鳥の区別なんて大きさくらいでしかつかなかったが、今になってこんな番組に心惹かれるのは、目の前の男のせいだろう。
「どうした」
いつまで経っても、この男はバッキーが見つめれば物言いたげな視線を返す。そんな顔をしなくとも、今はまだ取って食べたりはしないというのに。
バッキーは小さく笑って言った。
「いや、お前のところの情報将校、あいつが本当にファルコンの翼を直してきたから、訓練を付けるか迷っていると言ってただろう。俺はほとんど会ったことがないが、良いんじゃないかと思ってな」
「なんだ、藪から棒に」
「今のテレビ番組でやっててな。ハヤブサはインコに近い鳥なんだと」
——おしゃべりだろう。お前と一緒で。
それを聞いたサムはわずかに目を見開いた後、バッキーの脛を強く蹴った。しかしバッキーにとっては痛くもなかったので、ただ笑ってその肩を軽く叩いてやった。
「照れるなよ。おしゃべりはお前の最大の武器だろう」
参考:特別展「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」展示パネル