ハッピーエンド




 ウェイドが記憶を失った。
 アダマンチウムの銃弾が、脳を掠めてしまったらしい。
 幸いどこかの『ローガン』のようなことにはならず、ここ百年ほどの記憶を失うだけで済んだという。調査したTVAによれば九十八年と六ヵ月、ローラが家を出た直後、俺たちが恋人になる直前まで、ウェイドの記憶は失われた。
 そしてそれから一週間後、俺たちは揃って自宅のベッドの上にいた。


「手が早い!」
 目覚めたウェイドの第一声がこれだった。気絶するまで抱き潰した後にも関わらず、元気が有り余った声だった。一時間前に掠れ切っていた声は元の張りのあるものに戻っており、もう無理だと啜り泣くまで犯した身体には歯型の一つも残っていない。
 当たり前だ。ウェイドがあの程度で朝まで寝込むなどありえない。
 確かに恋人となった当初こそ、プレイの一貫でアナルセックスをする頻度は多くなく、またウェイドの腹の中に俺の性器を全て収めることはできなかった。しかしヒーリングファクターは怪我を治すが元の状態に戻すわけではない。同じくヒーリングファクターを持つローラが成長しているように、俺もウェイドも日々変化し続けている。記憶が消えても百年分の身体の変化がなくなる訳ではなく、昨夜口説き直したついでに抱いた身体は一週間前とほとんど変わっていなかった。
 しかし約百年分の記憶を失った男は小一時間で回復した自分の体が信じられないようで、程よく筋肉の付いた腹を撫でながら、破けてない。などと呟いている。
「破けるわけないだろ、あほんだら」
 ひとつ反応すると十にも百にもなって返ってくるため黙っていたが、馬鹿馬鹿しい言葉に呆れて思わず口を挟む。すると案の定、ウェイドは「でも」だの「だって」だの言い出した。
「俺、あんなデカいの挿れたことない」
 恋人になって約百年も経っていれば、今更ウェイドの過去のセックス事情に対してとやかく言うつもりはない。こちらにも探られたくない腹はある。ただ下品でくだらないことばかりを吐き散らす一方で、己のことに対しては慎重に言葉を選んできた男にしては珍しい失敗だった。
 本人もそれに気付いたのか、ハッと息を飲む。一瞬だけ逸らされた視線が再び俺に向けられたのは虚勢か、防衛本能か。
 どちらにせよ良いものではないと知ってしまっていれば、取るべき選択肢は多くなかった。
「は?」
 ぐわりと口を開け、呆けた声ごとその唇を塞いでやる。目を白黒とさせたウェイドがそれでも何かを告げようとしたが、耳に届くのはくぐもって意味をなくした音だけだ。
 口内を舌で掻き回した後、片手で顎を掴んだままウェイドを見下ろせば、こちらの出方を伺う鋭い視線が突き刺さる。
 その瞳を見返したまま、ウェイドの腹に人差し指を当て、俺はこれ見よがしに笑ってみせた。
「光栄だな。お前のココに挿入ったのは、俺が最初ってわけだ」
 ウェイドが本気で抵抗すれば、こちらの手の内から簡単に抜け出すことが出来るのは知っている。ウェイドは俺の下手な芝居に付き合うことにしたらしい。半眼になってこちらを睨み付けた後「俺ちゃんの腹を計測器代わりに自分の南半球のデカさ自慢ってか! 言っとくけど膨張率は負けねえからな!」などと喚き出した。
 堰を切ったように吐き出される下品な言葉の羅列を聞きながら、どうやら俺と恋人同士なのは疑ってはいないのだと気づく。
 昨日あれだけ口説いてやって、ついでに頭のてっぺんから足の先まで食い尽くしたのだから当然か。と思いながら、俺はひとつ欠伸をこぼす。
 二度あることは三度あるとは言うものの、ウェイドの口から「嘘だ」と言われるのは、これで最後にしたかった。



「嘘だ」
 恋人だった。と告げた時、ウェイドの口からこぼれ落ちたのがこの一言だ。TVAからウェイドを連れ帰ってすぐのことだ。
「一緒に暮らしてるんだ?」と首を傾げながら言われたので「恋人だったからな」と返したところ、ギョッとした顔で告げられた。
 予想がついていた一言だが、実際に言われると棘がちくりと刺さったように胸が痛む。この歳になってこんなありふれた表現が、己の中から出てきたことに苦笑する。
「まあ、信じられないだろうが」と言いながら、ウェイドへと手を伸ばす。
 その手に触れればウェイドは僅かに肩を震わせたものの、俺の手を振り払いはしなかった。
「本当だ」
 するりと指を絡めてみせれば疑いの目を向けられる。恋人となるまでの、何年も続いたティーンよりもなお不恰好でもどかしいやり取りを、ウェイドも忘れてはいないだろうに。
 お互いに恋を自覚しながら、けれど自分たちの関係に恋人というある種の定型が決まっている関係を加えるには、ぬるま湯で揺蕩うような、付かず離れずの距離感があまりにも心地よかった。
 さらに俺は酒をなかなか辞められず、こちらのアースのX-MENや、彼らから紹介された医師や当事者会の協力も得てしても、二百年分のアルコール依存を断ち切るのに長い時間をかけた。その間にデッドプールが世界の危機に首を突っ込み状況を悪化させ、別アースをも含めた厄介事を拾ってくるなどして、本気で愛想を尽かしかけたことも何度かあった。
 しかし結果的には関係性に恋人の二文字が加わって、それを機に二人暮らしを初めていた。
 ローラの独り立ちを報告し、それに合わせ住まいを変えようと思っていると告げた俺に、ウェイドが言ったのだ。
「寂しいね」
 二人でTVAからの依頼をこなしていた時のことだ。盗み出したデータチップを持ったまま、屋上でTVAに「タイムドアを開け」と連絡をした時のことだ。階段やエレベーターに仕掛けた爆発物のおかげで追手が来るまでに時間があり、その間の暇つぶしのはずの会話だった。
 ウェイドの言葉はなんの気のない言葉だった。朝におはようを告げるような、過去、アルやヴァネッサといった大事な存在との暮らしを手放したが故の、当然の言葉だと分かった。
 そう思ったら聞かずにはおれなかった。
「お前は俺がお前の家を出て行った時も寂しかったのか?」
 俺たちと言わなかったのはわざとだ。俺と一緒にウェイド達と暮らす家を出たローラは俺の付属品ではなく、またウェイドとの関係も、二人だけのものを築いていた。
 俺の問いに、ウェイドは笑って答えた。同時に敵の首がアダマンチウムの刀によって胴体から切り離されて、ポンと宙を舞った。
「寂しかったよ」
「そうか」
 己に向かってきた敵を爪で切り裂きながら、もう一度繰り返した。
「……そうか」
 寂しがらせたくないと、強く思った。同時に、これだけは伝えなければと思いながら、足場にしている建物がもうすぐ爆発すると叫んだウェイドに合わせて走り出す。
「ウェイド」
「なにローたん! 今は長話できないからな! せっかくの爆発なのに掛け声が間に合わなくなる!」
「俺も寂しかった」
「は」
「俺も、お前と離れるのは寂しかった」
 ふいに、目の端にオレンジ色の光が見えた。ウェイドから視線を逸らせばTVAへ続くタイムドアが宙に開いていた。ドアをくぐる為に地面を蹴る。同時に背後の建物から大きな爆発音が聞こえたが、お決まりの掛け声はなく。
 どうしたのかとウェイドを見れば、ウェイドはマスク越しでもわかるほど目を見開いて、信じられないものを見るように俺を見ていた。
 今のように。



「待った待った。ちょっとオイタが過ぎるんじゃないのクズリちゃん。2回目するなら今度こそインティマシー・コーディネーター呼んできて説得して貰うからな」
 寝ている間にウェイドが逃げ出さないよう覆い被されば、ウェイドの手が俺の胸元をグイと押す。
「乗り気じゃないお前を相手にしてもつまらないだろ」
「じゃあ俺を抱き枕に寝るつもり? いくら俺ちゃんがヒーリングファクター持ちだからって、あんたに乗っかられたら全身複雑骨折じゃ済まないんだけど」
 眉を顰めて「そこまでヤワじゃないだろ」と言えば、ウェイドが呆れたように口を開いた。
「自分の体重把握してる? 学園の定期検診サボってんじゃないだろな」
「骨のことは経過観察だが他は問題なし。毎年ローラと俺に学園の受付まで引き摺られて、検診にかかってるお前が言えることでもない」
「あれドナドナされる子牛の気分になるんだよね。俺ちゃんこれから食べられちゃうの?」
「そんな可愛らしいものでもない」
 そもそも既に食べられた後だろう。ベッドからずり落ちそうになっている毛布を引き上げて、寝るのに丁度良い位置を探ろうとするが、ウェイドがモゾモゾと動くので落ち着かない。
「動くな」
「無理だろ!」
 首元から俺の腕を退けてウェイドは叫んだ。
「ほんとふざけんなよ。ベッドはあんたのもんでも俺は違う。シャワーくらい浴びさせろ!」
「後でな」
「今! 今浴びさせろ! これ起きた時にカピカピになったシーツ見て後悔するやつだろ! 今の洗濯機と洗剤の性能がどんなもんかわかんないけど汚れと匂いが取りきれる気がしねえ! あとこのまま寝るのも嫌だ!」
「バーでしょんべん垂れ流してたやつが何言ってやがる」
「いつの話だそれ!」
「十年前」
 ウェイドがぴたりと動きを止めた。
「俺ちゃんマジで何やってんの?」
「知るか」
 戯言を右から左へ受け流し、その身体を引き寄せる。百年も恋人でいれば、癌とヒーリングファクターによって日々変化するウェイドの身体の中で、あまり触れない方が良い部分も分かってくる。今日はこのあたりかと右の肩甲骨周辺を避けながら宥めるように身体を撫で、そこを庇うように抱きしめれば、ウェイドが小さく息を飲んだ。
「あんた……」
 どうしたのかと視線を合わせれば、わずかなためらいを見せた後にウェイドが言った。
「本当に俺の恋人なんだな」
「まだ疑ってたのか?」
 思わず眉を跳ね上げれば、ウェイドはわざとらしく悩む素振りを見せた。
「あ〜、なんて言うか。確信が持てなかったというか。この一週間で散々『ウルヴァリンのパートナー』って扱いはされたけど、意識が追いついてなかったというか」
 でも。と告げたウェイドの手が、俺の背中に回る。
「さっきのセックスでも、今も、あんたの手が俺ちゃんのキモチイイところばっかり触るから、流石に実感が湧いちゃった」
 その手が触れたのは、俺の肩甲骨だった。
「実感湧いちゃうとほんと残念。ろくでもない記憶は自分でバンバン飛ばしてるだろうけど、あんたの記憶も、ローラの記憶も、他の、今の俺ちゃんが知らない人たちの記憶も、全部忘れちゃったんだなぁ……」
 俺を抱きしめるウェイドの腕に、力がこもった。
「ヴァネッサとアルのこと忘れなかっただけ、褒めてやりたいけど」
「ウェイド」
 小さく笑ったウェイドの身体を抱きしめ返す。そうしながら、俺は少しばかり罪悪感を覚えていた。過去、ウェイドがしたことへの意趣返しとは思っていたが、やり過ぎた。という言葉が頭の中で点滅する。
「……ローたん」
 ウェイドが俺の名を呼んだ。
「なんか隠してる?」
 思わず視線を逸らしたのは失敗だった。
「はいこっち見て〜。ほんと表情豊かだなあんた。流石はヒュー・ジャックマン。ミリ単位で動く皺に俺ちゃんもめろめろ。でも誤魔化されねえからな」
 片手で顎を掴まれると同時にもう片方の手が俺の性器に触れた。その判断の早さには感服するが、性器を潰されたいわけでもベッドの上で殺気を向けられたいわけでもない。
 ひとつため息を吐いて俺は言った。
「初めに言っておくが、このことはローラも知っていて黙っている」
「ローラも?」
「ああ。それだけお前が過去にやったことに対して怒ってるってことだ。俺も、ローラも」
 ウェイドの表情に、あからさまな動揺が走る。その一瞬で性器に触れていた手を外させて、俺は言った。
「お前の記憶は戻る。ウェイド、お前が望めばな」
「は……?」
「アダマンチウムによる記憶喪失の解消は、もう五十年以上前に実現してる」
 晴天の霹靂を、絵に描いたような表情だった。
「はああああああああ? なんだそれ。ウルヴァリンの根幹に関わる設定だぞ! ちゃんと報連相しとけスタッフ! ライアン・レイノルズが知らずに脚本書いたらどうすんだ! いつから設定が変更された? 俺ちゃんが忘れた百年の間? そりゃ仕方ない。とでも言うと思ったか!? ふざけんなよウルヴァリン! あんたが『ワースト』だからって黙ってて良いことと悪いことがある! TVAで百年経ってるって言われた時、俺がどう思ったか分かってんのか!?」
「分かってる」
「嘘付けこの、」
「ウェイド」
 強い口調で名を呼べば、ウェイドが息を飲んだ。分かっている。ともう一度繰り返す。ウェイドが俺のことを『ワースト』と呼ぶくらい怒っている理由も、記憶が戻ると告げられた時の安心感も。
 何もかも。
「そもそも大抵の人間は頭を撃ち抜かれたら死ぬのに、アダマンチウムによる記憶喪失の解消がなぜ必要になったと思っている?」
「そりゃ、ウルヴァリンの記憶喪失は有名で……」
「お前みたいなやつの中ではな。だが、少なくとも俺はそれを必要としていなかった。チャールズに出会う前ならともかく、あの人に出会ったことが俺の始まりだからだ」
「じゃあ、」
「ウェイド。気付いているはずだ。お前はそこまで馬鹿じゃない。他のアースでアダマンチウムが採掘できるようになったのは、もう百年以上前だ。その影響はこのアースにも届いていた」
 ウェイドの瞳を見つめたまま、俺は銃に見立てた指で己の頭を撃つ振りをした。
「二度目が起きた。チャールズに出会う前に逆戻りだ。この世界のアンカーとしては問題はなかったがな。そんな俺を偶然知り合った他のアースのチャールズに引き合わせると、お前は『世界の危機が必要だ』なんて意味のわからない理由を並べ立て、TVAの仕事にかかりきりになり、俺の前に現れなくなった」
 思い出すのは、TVAに用意された病室で、俺の記憶がないと悟った時のウェイドの表情だ。
『嘘だ』
 と男は言った。
 しかし次の瞬間には、絶望を取り繕って笑っていた。
「ローラとアルを忘れたことには、怒っていたがな」
 とはいえ。と俺は続けた。
「技術の進歩やX-MENの協力もあり、早々に記憶を取り戻す方法が見つかった。だが、それなりに危険もあり、十分なものでもなかった。少なくとも、俺には」
 常のお喋りが嘘のように、ウェイドは黙って俺の話を聞いている。
「なにせ消えた記憶の量が膨大だ。チャールズや神ならともかく、情報を一度に流し込まれれば精神が壊れる。アルコール依存が未だに俺に影響を与えるように、多くの情報が俺の精神に及ぼす影響が懸念された。だから一部の記憶は消されたままにすることが決まった。生きていれば忘れることは多くあるからだ。だだ、その時お前が言ったことが問題だった」
「……何?」
「お前は、自分のことを忘れても良いと言ったんだ」
 あの時、デッドプールのマスクを付けた男は、明るい口調で俺に言った。
『じゃあ、俺ちゃんのこと忘れちゃえば?』と。
 その言葉を思い出すだけで爪が出る。
 ウェイドはジッと俺の顔を見つめている。
「……でも、あんたは覚えてる」
「同時に起こった世界の危機で、記憶の剪定を行う暇もなく機械を動かさなきゃならなくなったんだ。その時、死にかけながら壊れかけの機械に俺を押し込んだのはお前だ。マドンナの曲が聞こえたなんて言ってたな」
「マドンナの曲は最強だからね」
「俺には聞こえなかったが」
「加齢で耳が遠くなった?」
「何が理由にせよ、機械から解放された俺は全てを思い出していた。俺が救えなかった人達のことも、ワーストと呼ばれたきっかけも、お前のことも」
 そして。
「機械の外に出た瞬間、お前を爪で刺していた」
「盛り上がりに水を注さないでくれない? 脚本書いたの誰よ」
「それだけ腹が立っていたということだ。自分のことを忘れて良いと告げたお前にも」
 そして誰より、あんな弾丸ひとつ避けられず、忘れてしまった己に対し。
「一度バラバラになった機械を作り直し、改良を加えるにも時間がかかるという良い言い訳もあった。とはいえ、記憶を失ったお前を必要以上に不安がらせたのはやり過ぎた。すまない」
 頭を下げて詫びれば、ウェイドはきまり悪そうに頬を掻いた。
「いや、まあ、俺ちゃん酷い目みないと反省しないから、反省させる為の手段としては最適だと思うけど。……でも」
 俺の額に自分の額を合わせ、ウェイドは言った。
「忘れた。って分かった時、寂しかったから、これっきりにはして欲しいかな」
 焦点が合わぬほどの距離で、その瞳が俺を映している。
 デッドプールは、あるいはウェイドは、人に嫌われるような言動を振りまきながら、一方で両手で抱えられる程度の大事な人のためには命を惜しまない。
 頭の良い男であるから、自分が忘れてしまった百年の間に出会って別れた、もうこの世にはいない大事な人がいることにも気付いている。
 ひとつキスを降らせたウェイドが言った。
「俺ちゃんも、もうあんたに忘れろって言わないから」
「……分かった」
 キスを返し、頷いた。
 寂しかった。と男は言った。
 それは俺も同じことだった。二度目の記憶喪失から目覚めた時、酷い喪失感に見舞われた。記憶は脳だけで記録されるものではないと、どこかで聞いたことがある。
 だからだろうか。病室に現れたウェイドを目にした時、心臓が跳ねた。けれどその理由が分からなかった。何も言えないでいる俺に、ウェイドは勝手に語りかけ、そして違和感に気付いた瞬間に顔色を変えた。いくつかの質問の後、俺の答えから記憶喪失を悟ったウェイドは『嘘だ』と言った。
 俺こそがそう言いたかった。
 目の前の男が今の俺にとって誰よりも大事だと分かっているのに、名前ひとつ呼べもしない。
 そのことがひどく寂しく、信じられなかった。
 俺に「恋人だった」と告げられたウェイドも、同じだったのだろうか。
「ローガン」
 甘えるようにウェイドが俺の名を呼んだ。その手が俺の性器に伸ばされる。先程のように脅すためではなく、俺を気持ちよくする為に。
「インティマシー・コーディネーターは良いのか?」
「映画なら必要に決まってるだろ! でも、今は俺ちゃん第四の壁に背中向けてんの。気持ち的にね。分かる?」
「分からん」
 けれどもウェイドが乗り気なことは分かる。
 俺はウェイドに尋ねた。
「嫌じゃないか?」
「全く」
「そうか」
 ならばとウェイドに口付ける。
 ウェイドが笑う。
 その笑顔を見ていると、凪いだはずの怒りがふつふつと湧いてきた。
 ウェイドの頭を撃ち抜いた組織をTVAから聞き出して、壊滅状態に追い込んだのは昨日のこと。
 地下の研究所をほとんど埋めてしまったが、もう少し暴れておいても良かったか。と思いながら、しかしそんな邪念を首を振って打ち消し、俺は再びウェイドの身体をかき抱いた。