骨
ウェイドが笑っている。いつものことだ。時と場合によっては放置するが、今日ばかりはそうもいかない。なにせお互い全裸でベッドの上にいる。何故かは言うまでもない。セックスをするからだ。間違いでも酒の勢いでもなんでもなく、お互いの意思でこのケイブに来てシャワーを浴び、裸になってベッドに乗った。
なのに抱き合ったところでウェイドが吹き出した。
それから十分ほど、ウェイドは笑い続けている。
「ウェイド」
俺はベッドに突っ伏してひいひいと笑っているウェイドの尻に声をかけた。
「今日はやめるか?」
そんな気はないのに問いかけることほど馬鹿馬鹿しいものはない。
案の定、俺の問いに「待った待った」とウェイドが手を挙げる。いまだに上手く息が出来ず喉が引き攣り口の端が歪んでいるが、一応喋ることはできるらしい。
「するする。するから。ここまで来てやめるとか勿体無い。あんたが俺で勃ってるって分かったら面白くなっただけ。ちょっと萎えた? ごめん。俺の息子も萎えちゃったからおあいこで。でもほんと、あんた天下のウルヴァリンなのにね」
起き上がったウェイドは、俺の隠していない股間を見てしみじみと言った。放置されても完全には萎え切っていないことに、俺自身が一番ウンザリしていた。
ウェイドが口を開く。
「遊びでも本気でも、あんたの相手したいってやつならいくらでもいそうなのに、俺ちゃんでこうなっちゃうんだから世界って不思議」
「お前も人のことは言えないがな」
「俺ちゃん結構モテるから」
肩をすくめたウェイドに、俺は首を振った。
「冗談じゃないからな。ウェイド。俺が物好きだというならお前もだ。俺の相手をしたい奴なんざ、人間でもミュータントでも向こうのアースでは誰一人いなかった」
「二百年ずっと?」
「ああ」
頷けば、ウェイドの顔から笑みが消えた。
「嘘だろ」
「本当だ」
「じゃあその間あんたのご立派な二百七本目の骨はどうしてた? アダマンチウムにも負けない硬さだろ? まさか右手でなんて言わないよな?」
「触った事ないだろアホんだら。そもそもあの頃は酒浸りで碌に勃たなかった」
今度こそ、ウェイドは言葉を失った。俺はひとつ息を吐く。
世界を失望させた。全てを壊し尽くした。人もミュータントも俺を止めようとして出来なかった。だから最後には誰もが俺を避け、近寄ろうとしなかった。ただ死ねない俺には思考を鈍らせる酒が必要で、チャールズ達が残した金さえ出せば求めるものは提供されたから、それだけが他者との繋がりであり、あの頃の俺が唯一必要としたものだった。
「なのにこれだ」
ようやく俺と向き合った裸のウェイドを前にして、すでに元気になりかけている単純なモノを指差したあと、俺は今度こそため息を吐いた。
「贅沢になった」
碌に勃たなかった。その言葉に偽りはない。だがようやく酒が抜けたと思ったら、たった一人に反応した。そしてウェイド以外には反応しない。
それに気付いて笑いたくなったのは俺の方だ。
性欲を自覚する以前から、自分がウェイドに友情だの恋情だのを感じていたのは気付いていた。だが、それこそ右手で解消できるような、すっかり枯れたと思っていた性欲までウェイド相手に抱くとは思わなかった。
恋愛や友情といった感情ごと、あっさり受け入れられるとも。
ウェイドに手を伸ばす。
「お前が良い」
腰に腕を回し、ウェイドを引き寄せる。傭兵の身体は思いの外抵抗なく俺の腕の中に収まった。俺の肩口で、ウェイドがひとつ息を吐く。
「俺ちゃんこれからどれだけ落ち込んでも酒は控えめにしとく」
「そうしろ。あんな風に飲むもんじゃない」
酒の美味さを思い出したのもこのアースに来てからだ。ウェイドの頬にひとつ口付けて、ほんの少しだけ身体を離してその顔を見た。
「キスしても?」
ウェイドが答えを発する前に、開いた唇に己のそれを合わせた。ウェイドの喉からくぐもった笑い声がする。がっつきすぎだのなんだのと言われているのだろう。そうと分かっていながら手を止めなかった。お預けはもう十分だ。
ウェイドが笑っている。腕が俺の背中に回される。
ウェイドの黒い瞳に映る俺自身も笑っていたが、それは見なかったことにした。
俺の二百七本目の骨は、もうすっかり硬くなっていた。