ハッピーエンド
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ウェイドが記憶を失った。
アダマンチウムの銃弾が、脳を掠めてしまったらしい。
幸いどこかの『ローガン』のようなことにはならず、ここ百年ほどの記憶を失うだけで済んだという。調査したTVAによれば九十八年と六ヵ月、ローラが家を出た直後、俺たちが恋人になる直前まで、ウェイドの記憶は失われた。
そしてそれから一週間後、俺たちは揃って自宅のベッドの上にいた。
は。と吐き出した息が常より熱い。ウェイドに触れた手が汗で滑る。エアコンの稼働音がひっきりなしに響いていて、除湿機も付ければ良かったかと今更なことをぼんやり思う。しかし今のウェイドを放ってベッドから離れることなど無理だった。
「ウェイド」
耳元で囁けば、ウェイドの身体が小さく跳ねた。記憶を失った男を食事に連れて行ったついでに口説き、どさくさに紛れてセックスの合意を取ったのは二時間ほど前のこと。家に到着したと同時に大騒ぎする口を己の口で塞いで、舌を噛み切られながら風呂で身体を洗ってやった。そしてベッドに移動してからは、久しぶりだからと念入りに準備をしたおかげで、ウェイドのアナルは俺の指を三本咥えている。
咥え込ませた指を開けばウェイドがうめき声を上げた。この期に及んで唇を噛み、声を漏らさんとする様は健気というより痛々しい。今更ウェイドが大声で喘いでも、こちらとしてはそれがわざとらしい演技でない限り萎えはしないのだが。
しかしそう伝えても無駄だと経験から知っていたので、さっさと気持ちよくしてやることにする。
指を引き抜き仰向けに転がせば「ひっ」とウェイドが息を飲んだ。それを横目に見ながら枕元に放り出されていた新品のコンドームの箱を引き寄せる。爪でパッケージを破って何枚かベッドの上に散らばした。どうせ一回では終わらないのだ。いちいち箱から取り出すのも面倒くさい。
しかしウェイドはその数にギョッとしたように目を見開いた。
「まっ、た! 待て! おい待てローガン! 手が早いのはまあ良い。物語の主役なんてそんなもんだ。不要論もあるが、お色気シーンってのは根強い人気がある。けどそれも一回やりゃ充分だろ。撮り直しにだって時間と役者の身体的精神的負担の考慮が必要なんだから、複数回ヤるならインティマシー・コーディネーター呼んでこい!」
「映画じゃないだろ」
封を破り、コンドームを取り出しながらため息を吐く。往生際の悪いウェイドが逃げ出す前にさっさと付けて、その身体に覆い被さった。
「第一お前はこのベッドの上に、今から他の誰かを加える気か?」
「そ、ういう意味じゃないだろ」
焦点が合わぬほど至近距離で告げれば、ウェイドが目を泳がせた。
「けど、そんなに何回もできるわけがない」
ほんの少しだけ上擦った声で告げられる。その言葉に今更ながら、記憶がないのだと実感する。確かに恋人となった当初は手や口での行為が多く、プレイの一貫でアナルセックスをしても、挿入は一度だけで終わることがほとんどだった。しかしヒーリングファクターは怪我を治すが元の状態に戻すわけではない。同じくヒーリングファクターを持つローラが成長しているように、俺もウェイドも日々変化し続けている。そして記憶が消えても百年分の身体の変化はなくならない。そのはずだ。
「分かった」
俺が告げれば、ウェイドがパッと目を輝かせた。その目元に口付けながら、足を開かせる。
「二回目する時に、嫌だとお前が言ったらやめてやる」
「ん?」
ウェイドの口が次の言葉を紡ぐ前に、薄い唇に己の唇を重ね、舌を口内に差し込んだ。歯列をなぞり、舌に舌を絡ませ、音を立てて唾液を啜る。先程ウェイドの尻を洗浄しようとし、嫌がられて舌を噛み切られた際に告げたように、相手が「嫌だ」「やめろ」と言うことは無理強いしない。それが恋人となってからずっと破られることのない、俺とウェイドのルールだった。ヒーリングファクターを持つが故に、お互いの「嫌だ」も「やめろ」も通用しなくなり、無茶な行為に慣れてしまうのが一番怖いことだからだ。
とはいえセックス時のみのルールであり、それ以外では刺そうと刺されようとお互いの言うことなんて聞かないのだが。
そう思いながら上半身を起こし、組み敷いた男の腰を抱えてアナルに亀頭を当てる。グッと押し込めば、ウェイドの身体が強張った。宥めるように名前を呼べば、ウェイドはそろりと目を開き、俺の腕を掴んだ後、腹に力をいれた。
抵抗が和らぎ、エラの張った部分が飲み込まれる。そのまま浅い部分を軽く抜き差しすれば、たまらないと言うように声が上がる。太い部分がアナルの縁を引き延ばすたびに、無意識にか尻が揺れ、勃ち上がったウェイドのペニスもぶるぶると先走りを飛び散らす。
「ウェイド、一回抜くぞ」
答えを待たずに一度抜き、体勢を変えてウェイドの膝裏を掬い上げる。ほとんど天を向いたアナルが赤い内側を晒しながらひくついていたが、視線を感じたのかキュウと閉じた。そこにべチリと己のペニスの竿を当て、ウェイドのパンパンに張った睾丸を押し上げるように二、三度股の間を往復させた後、再度ウェイドのアナルに突き立てた。