2025年1月13日の投稿[3件]
ウルデプ新刊サンプル①
酒の席での戯れだ。「好きだよ」と言われて「俺もだ」と返した。ヒーリングファクターがあるため酔い辛く覚めやすいとはいえ、俺たちにもアルコールは効く。その日のウェイドは俺に釣られて度数の高い酒をよく飲んでいた。久しぶりに過去の夢を見て、酒を飲まずにはいられなかった俺に釣られて、だ。
「あー、くそっ! 最悪の仕事だっ、た……」
まだ日も昇らぬ早朝から一人ソファに腰掛けて、暗い部屋でアルコールを摂取していた俺が、タイミング良く――あるいは悪く――傭兵の仕事から帰ってきたウェイドの目にどう映ったのかはわからない。
「おはよーハニー! 俺ちゃんがいない間元気してた?」俺を目にしてすぐ、そう言って汚れたスーツのまま一方的に俺に絡んだウェイドは、邪険にする俺にも構わずいつもの軽口を捲し立て、日が昇ったあたりでシャワーを浴びた。そして部屋着に着替えたところで寝室から出てきたメリーに餌をやり、起きてきたアルとローラとウェイド自身と、俺の朝食を作って食卓を囲んだ。
「いただきます!」
魔法のようだった。
カーテンが開かれた部屋は明るく、普段は俺のマグカップがある位置に、酒瓶が置いてある以外は全くいつもの食卓と同じだった。その酒瓶にローラの視線が注がれているのには気付いていたが、何も言われることはなかった。
「なんだい飲んでるのかい? それなら私にも」
「シャラップ! 俺たちが夢の国に住所を移した以上、超えられない壁がある。わかる?」
「勝手に人の家を移動させておいて良い気なもんだね。わかった。あんたの淹れ方が悪いから酸っぱくて喉越し最悪、後味は苦いだけ。のインスタントコーヒーが最悪だから、白砂糖が欲しいんだけどね。鼻から吸うのが」
「だからダメだって言ってんだろこのクソババア!」
横でこんなやり取りをしているのだ。口を開くのもバカバカしくなったに違いない。全くもってローラの教育に悪いが、本人は小さな声で「反面教師……」と呟いていた。もちろん俺だけでなくアルとウェイドの耳にも届いていた。
「そうだよこんなケチくさい男に似るんじゃないよ。そっちの自分は飲んでるくせにこの哀れな年寄りに砂糖一袋買ってこないバカにもね」
「薬中が何か言ってる。嫌だね〜。ローラはこんな大人にはならないもんね。デザートもあるよ。メリたんには俺特製の無糖ヨーグルト」
「パッケージから出しただけのヨーグルトで手作り感を出すんじゃないよ」
「ちゃんとバナナも入ってます!」
「切っただけ」
「キィー!」
気が付けば朝食を食べている間、ほとんど酒は減らなかった。
けれど身支度を整えたアルとローラとメリー、そしてウェイドがそれぞれの用事で外へ出ていってしまってはダメだった。
先程まで騒がしかった部屋に、ぽつんと自分一人がいる
無意識に背が丸まって、窓から差し込む日光も景色も全てが目を通り過ぎていく。
視覚嗅覚聴覚触覚、感じている全てが遠のいて、ただ脳裏を流れる映像だけが鮮明だ。
今更どうすることもできないのに、思考だけが同じ場所を回っている。
それを止める為に酒を飲む。
「ただいまー!」
だからさほど時間も経たぬうちに、両手に食材を抱えたウェイドが開いた窓から入ってきた時はギョッとした。
▲たたむ
酒の席での戯れだ。「好きだよ」と言われて「俺もだ」と返した。ヒーリングファクターがあるため酔い辛く覚めやすいとはいえ、俺たちにもアルコールは効く。その日のウェイドは俺に釣られて度数の高い酒をよく飲んでいた。久しぶりに過去の夢を見て、酒を飲まずにはいられなかった俺に釣られて、だ。
「あー、くそっ! 最悪の仕事だっ、た……」
まだ日も昇らぬ早朝から一人ソファに腰掛けて、暗い部屋でアルコールを摂取していた俺が、タイミング良く――あるいは悪く――傭兵の仕事から帰ってきたウェイドの目にどう映ったのかはわからない。
「おはよーハニー! 俺ちゃんがいない間元気してた?」俺を目にしてすぐ、そう言って汚れたスーツのまま一方的に俺に絡んだウェイドは、邪険にする俺にも構わずいつもの軽口を捲し立て、日が昇ったあたりでシャワーを浴びた。そして部屋着に着替えたところで寝室から出てきたメリーに餌をやり、起きてきたアルとローラとウェイド自身と、俺の朝食を作って食卓を囲んだ。
「いただきます!」
魔法のようだった。
カーテンが開かれた部屋は明るく、普段は俺のマグカップがある位置に、酒瓶が置いてある以外は全くいつもの食卓と同じだった。その酒瓶にローラの視線が注がれているのには気付いていたが、何も言われることはなかった。
「なんだい飲んでるのかい? それなら私にも」
「シャラップ! 俺たちが夢の国に住所を移した以上、超えられない壁がある。わかる?」
「勝手に人の家を移動させておいて良い気なもんだね。わかった。あんたの淹れ方が悪いから酸っぱくて喉越し最悪、後味は苦いだけ。のインスタントコーヒーが最悪だから、白砂糖が欲しいんだけどね。鼻から吸うのが」
「だからダメだって言ってんだろこのクソババア!」
横でこんなやり取りをしているのだ。口を開くのもバカバカしくなったに違いない。全くもってローラの教育に悪いが、本人は小さな声で「反面教師……」と呟いていた。もちろん俺だけでなくアルとウェイドの耳にも届いていた。
「そうだよこんなケチくさい男に似るんじゃないよ。そっちの自分は飲んでるくせにこの哀れな年寄りに砂糖一袋買ってこないバカにもね」
「薬中が何か言ってる。嫌だね〜。ローラはこんな大人にはならないもんね。デザートもあるよ。メリたんには俺特製の無糖ヨーグルト」
「パッケージから出しただけのヨーグルトで手作り感を出すんじゃないよ」
「ちゃんとバナナも入ってます!」
「切っただけ」
「キィー!」
気が付けば朝食を食べている間、ほとんど酒は減らなかった。
けれど身支度を整えたアルとローラとメリー、そしてウェイドがそれぞれの用事で外へ出ていってしまってはダメだった。
先程まで騒がしかった部屋に、ぽつんと自分一人がいる
無意識に背が丸まって、窓から差し込む日光も景色も全てが目を通り過ぎていく。
視覚嗅覚聴覚触覚、感じている全てが遠のいて、ただ脳裏を流れる映像だけが鮮明だ。
今更どうすることもできないのに、思考だけが同じ場所を回っている。
それを止める為に酒を飲む。
「ただいまー!」
だからさほど時間も経たぬうちに、両手に食材を抱えたウェイドが開いた窓から入ってきた時はギョッとした。
▲たたむ