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No.3170
昨日からちまちま描いてるDとオラの進捗。1万字超えたくない。
原稿めちゃくちゃ時間かかるの、一回これくらいの密度でざっくり書いて、ザクザク削って、一部増やして密度に緩急付けて、削って、もっかい書き直してるからだとはわかっている。
▼続きを読む
轟音と共にサイバトロン星へ着陸した宇宙船の存在は、メガトロンのマイクロホンにも届いていた。
事前の通信内容と同じく、乗っているのは『コグを取り戻した』トランスフォーマー数機と彼らが不時着した星に住む有機生命体の使者数名。
そこに本来あるはずの、オプティマスプライムの名前はない。
重々しく開いた宇宙船のハッチから、乗務員達が降りてくる。メガトロンをスコープに納めた途端に大きく手を振った黄色い機体は無視をして、メガトロンは有機生命体の使者を見た。
人間という、コグ無しと同じ大きさしか持たず環境適応スーツやアーマーと呼ばれる外部パーツがなければサイバトロン星の土も踏めない存在は、しかし真っ直ぐに、メガトロンの灯す赤い光を見つめ返していた。
「あれが……」
続々と集まってくるトランスフォーマー達には聞こえない、もはや振動とも呼べない声で、メガトロンは呟いた。
「あれがお前の答えなのか? オプティマスプライム」
◆
センチネル『プライム』が労働ボットからコグを奪ったのは、階級制度による社会構造を構築するためだけではない。
そうと気付いたのはコグを身体に植え付けたクインテッサ星人が現れて、全てが終わった後のことだった。
「オプティマスプライム」
本来ならば医務室にいるはずの背中を記録保管庫で見つけ、メガトロンは舌打ちをした。
「何をしている」
「メガトロン」
声をかける前から気付いていただろうに、オプティマスプライムと呼ばれた『コグ無し』は、驚いたようにホログラムから顔を上げた。
「見てわからないのか? 記録の確認だ」
「お前の仕事じゃない」
「だが、禁止されてもいない」
流れ続けるホログラムを一時停止して、オプティマスプライムは肩をすくめた。
「あんなことがあったんだ。まだ他のみんなは今忙しいだろう? どうせ誰かがやらなくちゃいけないことだ。俺の空き時間はたっぷりある。座ったままできる仕事なんて、今の俺にピッタリじゃないか」
「必要ない」
「おいおい必要がないなんてそんなこと、」
「お前がする必要がないと言ったんだ。オプティマスプライム!」
大型機特有の発声回路により、オプティマスプライムのそばの空気がビリビリと震える。自機の2倍はあろうかという機体に詰め寄られた上に、至近距離で叫ばれて、それでもオプティマスプライムは微動だにしなかった。それどころかやれやれといったように首を振る。
「それを決めるのはお前じゃない」
「じゃあ誰が決めるっていうんだ?」
「オプティマスプライム?」
睨み合う二人のやり取りに割り込むように、底抜けに明るい声がオプティマスプライムを呼んだ。二機が声のした方へ視線を向ければ、棚と棚の間からB-127の顔が現れる。彼はその青い視覚センサに二機を認めると、パッと顔を輝かせた。
「あ、メガトロンもここにいたんだ! 良かった〜。探したよオプティマスプライム。どこに行ってもいないんだもん。一生見つからないかと思った。検査の時間を過ぎても医務室に来ないからドクターが怒ってたけど、どうする? 俺と一緒に医務室に行く? それとも無視する?」
「無視」
「医務室だ」
オプティマスプライムの言葉に被せるように、メガトロンが断言した。
「早く連れていけ」
「Bはお前の部下じゃないだろ」
「お前がそんなナリの今は、俺の『預かり』だ」
「けれど、俺とお前なら俺の方が権限が強い」
「お前も俺の『預かり』だということを忘れるな」
「アイアコンでは個々の自由と権利が何よりも優先される」
打てば響くようなオプティマスプライムの言葉に、メガトロンの眉間の皺が深くなる。その口が再度開きかけたのを見て、オプティマスプライムは「おっと」とその掌をメガトロンの前に突き出してみせた。
「言いたいことはわかる。病人はその自由を制限されることがある。だろう? だが、それに対する答えも俺は持っている。このままだと平行線だ。仕方がない。B!」
「なに?」
「今の話を聞いていただろう?」
「聞いてたよ。けど、わざと口を挟まなかった。わかるだろ? 俺も政府の一員だけど、その辺の仕事はプライムの領域で、俺には何が何だかさっぱりだ」
「意見を聞きたいだけだ。君はドクターの要請に答えない俺を探しにきて、医務室に行くか無視するか聞いだろう? どっちが良いと思う?」
「医務室に決まってるだろう」
「メガトロン。今君には聞いていない。B、どっちだ?」
「それくらいならわかるよ! そうだなあ……」
他の者なら萎縮してしまいそうな赤と青の視線を受けながら、オプティマスプライムと同じ『コグ無し』であるB-127は、良いことを思いついた。とでもいうように、指をパチンと鳴らしてみせた。
「とりあえず医務室には行って、検査内容が気に入らなきゃ無視する。それでどう?」
トランスフォーマーの魂であるスパークを身体の隅まで行き渡らせ、持ち主の秘めた力を引き出すのがコグの力だ。数千サイクルをかけてその力を解析し、コグを身体に埋め込むことによって強化されたクインテッサ星人は、一時サイバトロン星を崩壊の危機にまで追い詰めた。しかしただ一機のプライムとしてサイバトロン星を支え続けたオプティマスプライムが、この星の危機を救った。
その身に宿したマトリクスをプライマスへ返還することにより、星の崩壊を食い止めたのだ。
「ひどい。このデータも改竄されてる」
モニターに映ったコードを見て、エリータ1は顔を顰めた。それはセンチネルの統治時代に作られた貨物列車の運行状況と貨物リストのデータだ。
「見ただけでわかる杜撰な改竄。こんな時間に列車が出発したことなんてない。誰がこんな適当な仕事をしたの?」
カセットを床に投げ捨てて、エリータ1は言った。
「次はどれ?」
「はいよ。とりあえず新しい番号のものを10枚。目視検査済。ウイルスチェック済」
エリータ1のデスクにカセットを積んで、オプティマスプライムは大きな排気をこぼした。
「記録保管庫のプライムやマトリクスに関する伝承も、見える範囲にあったものはすべて書き換えられていたんだ。こっちも秘密裏に管理されたデータ以外、全部改竄されると思った方が良い」
「その秘密裏に管理されたデータがあるかどうか分からないから、ローラー作戦で確認してるんでしょ」
エリータ1がカセットを接続部に差し込んで、データをモニターに映す。もう流れ作業になった方法で内容と改訂履歴を確認し「これは貨物でなくて労働ボット用電車の運行記録」と呟いた。
「あるはずだ。クインテッサにささげる列車の中身がエネルゴンではなく汚染された金属だった。なんてことがあれば、アイアコンはとっくの昔に滅んでる。偽装を続けるにはどこかで貨物列車の運行計画と貨物の中身を管理する必要がある」
「簡単に言ってくれるけど、それが見つからないからみんな苦労してるんじゃない。あなたもぼうっとしてないで作業に加わったら?」
「そうしたいのは山々なんだが、先週メガトロンと医務室に睨まれたばっかりでね。次やったらベッドにくくりつけるって言われてるんだ」
ウイルスチェック用に作られた簡易機器にカセットを差し込みながら、オプティマスプライムは本日何度目かの重たい排気を吐き出した。
「作業に熱中して時間を忘れるからでしょ」
エリータ1は彼を振り返らずに言った。
「そうじゃなかったら起動したばかりの子供の手も借りたいくらいよ。いっそ検査のついでにタイマーかアラームを体に仕込んでもらったら?」
「コグの代わりに?」
「笑えない」
椅子を回転させてオプティマスプライムに向き合うと、エリータ1は立ち上がった。
「笑えないわよオプティマスプライム。あなたがマトリクスをプライマスに返還した戦いで、私が何をクインテッサに狙われたか知ってて言ってる?」
エリータ1の美しい指先が、オプティマスプライムの胸の穴を指差した。己よりずっと大きくなった——正確にはオプティマスプライムが小さくなったのだが——彼女に、オプティマスプライムは白旗を上げた。
「悪かった。君に当たるような真似をした」
先のクインテッサとの戦いにて、クインテッサはトランスフォーマー達のコグを奪うと同時に、明らかに特定のトランスフォーマーへの執着を見せた。
エリータ1、B-127、そしてメガトロン。
——プライムのコグを持つ者たち。
「言葉には気をつけてよね」
カン。と音を立ててオプティマスプライムの肩を叩くと、エリータ1は再度データに向き直った。
「あなたの失言は置いておくけど、早くセンチネルがどれだけのコグをクインテッサに渡していたのかを突き止めなくちゃ。奪われたコグや逃した『コグ持ち』以上に兵力がいるかどうかを掴まないと」
「常に緊張感は保ってられないし、エネルゴンも湧き出なくなったから余計な労力は使えないからな」
「今のが自虐なら殴るけど」
「そんなことはありませんエリータ1!」
いつかの鉱山時代を思い起こさせる返答に、エリータ1はひとつ排気をこぼした。
「良いから次のを持ってきて」
「はいはいっと。……ん?」
新しい記録媒体を持ってこようと棚の間を覗き込んだオプティマスプライムは、しかしふと動きを止めた。見慣れない棚が壁沿いに増えていたからだ。
「エリータ、この棚は?」
「棚?」
「知らない棚が増えてる」
新たなカセットを床に放って、エリータ1はオプティマスプライムの指差す方を見た。彼女からは死角になる位置に置かれた棚だが「ああ、それのこと」と納得したようにデスクに向き直った。
「それならBがどこかから見つけて持ってきた棚よ。データ探しに古い記録媒体を整理したいって言ったら、俺見たことある! ってトランスフォームも出来ないのに地下五十階まで走って行って、その辺の針金で自分の体に括り付けて持ってきたの。つまりは地下のもの」
オプティマスプライムは棚に歩み寄り、エリータ1へと声を張り上げた。
「中身は?」
「少しだけ確認したけど、貨物情報じゃないことだけは確かよ。見て分かるように記録媒体がセンチネルの統治時代よりずっと古い。ただ媒体自体は壊れてなさそうだしBがせっかく持ってきてくれたものだから置いてあるだけ。元親衛隊あたりに見せたら何か知ってるかもしれないけど、今はそんな暇がないから後回しにされてる」
「へえ……」
オプティマスプライムは棚に歩み寄ると、記録媒体を手に取った。確かに他のものよりも古びているが、置かれていた場所が良かったのか一目で分かる劣化はない。
何枚か手に取って媒体に振られた番号を眺めていると、今度はエリータ1が声を張り上げた。
「それよりも、あなた時間は確認してるの?」
「時間?」
見つけ出したナンバー1を己の機体の隙間に滑り込ませ、オプティマスプライムは首を傾げた。
「そう。時間」
エリータ1は言った。
「今のあなたはトランスフォーム出来ないんだから、遅れないように検査に行くならもうここを出なきゃ間に合わないわよ。あのドクター達なら数サイクル前まで患者を増やし続けたメガトロンの手を借りてでも、今度こそ本当にあなたをベッドにくくりつけるでしょうね」
センチネル『プライム』にとって労働ボットからコグを抜くことは、社会構造の維持とクインテッサとの取引材料を手に入れる一挙両得の方法だったのだろう。
だが彼がアイアコン全住民の半分にまで増えた『コグ無し』のコグのほとんどを、クインテッサ星人に捧げず地下に保管していたのは何故なのか。まだコグの解析が終わっておらずクインテッサ星人がエネルゴン以上の価値をコグに見出していなかったのか、それとも別の理由なのか。
死してなお、センチネルが残し、植え付けたものはクインテッサ星人の触手のようにサイバトロン星に絡みつき、この星を蝕んでいる。
「どーぞ」
ノックが二回。入室の許可を得る合図に、オプティマスプライムはベッドに寝転がったまま答えた。彼がコグ無しとなってから作られた検査室は医務室内の隣にあり、検査道具とベッド、そして緊急修復ポッドで面積の半分が埋まっている。
ドアが開く音にホログラムから顔を上げたオプティマスプライムは、ほんの少しだけ驚きを表情に乗せた。なにせ現れたのがメガトロンだったからだ。控えめなノックの音を思い出し、らしくないな。と感じたが、なにもドクター達に睨まれているのはオプティマスプライムだけではない。大方ドクター達に厳しく言いふくめられたのだろうと予想をつけて、彼はホログラムを消すとベッドから起き上がりメガトロンと向き合った。
「ご用は?」
「聞きたいことがある」
威圧感を滲ませたメガトロンの言葉に、思ったより早かったな。とオプティマスプライムは内心苦笑する。
「何を?」
「お前が企んでいること、全てだ」
メガトロンが、オプティマスプライムの顔を覗き込む。
——嘘も誤魔化しも許さない。
そう告げる赤から、オプティマスプライムは目を逸さなかった。
しばし無言で見つめ合う。先に口を開いたのは、オプティマスプライムだった。
「……企むというほど、道筋が見えている計画じゃないさ」
そう言って、彼は己とメガトロンを隔てるように、ホログラムを展開した。
メガトロンが眉を寄せる。
「これは?」
「13プライム統治時代の研究内容一覧と、その成果物」
「13プライムの?」
プライマスより生み出されし最初のトランスフォーマー達であり、数千サイクルもの間、クインテッサ星人と戦い、この星を統治した者たち。
天井まで映し出されたホログラムをメガトロンは見上げた。その姿を一瞥し、オプティマスプライムは続ける。
「知っての通り、この時代の多くのものがセンチネルにより失われた。記録、伝承、プライムやマトリクスに関する研究や、13プライムについて書かれた個人の日記まで」
「こんなもの、どこから」
「Bさ」
「Bだと?」
「ああ、あいつが棚一台分の記録媒体を見つけ出した」
手元のボタンを操作し、オプティマスプライムが地下50階の光景を映し出した。
「どうやらセンチネルが己の汚い欲望を地下41階から50階に隠したように、彼に賛同しないトランスフォーマーも同じことを考えたようでね」
今はもう動いていない溶鉱炉の反対側。B-127のお友達がいた部屋の壁が、一部凹んでいる。
「棚と解らないように裏面を向け、熱で記録媒体が劣化しないよう溶鉱炉から離れた場所に棚が設置してあった」
それを聞いて、いっそ呆れたようにメガトロンが言った。
「あいつはどうやってそんなものを見つけたんだ」
「お友達にトランスフォームを見せて棚の背面を壊したらしい。記録媒体を見つけた時は驚いたが、当時はアイアコンの再建で忙しかったからな。とりあえず簡単に直して今まで忘れていたと言っていたよ」
「……スティーブといい、どうなってんだあいつは」
「あの部屋が異質なのかもしれないがな」
「で?」
メガトロンは、地下50階の映像を消したオプティマスプライム見た。
「お前はその研究成果で、何をしようとしている?」
うっすらと、メガトロンの言葉を聞いて、オプティマスプライムは笑った。
「……古い研究だ。元親衛隊に確認するまでもなく、時代遅れだったり間違った方向に向かっていた研究も多い。一方で、今でも
▲たたむ
2024.10.28 19:12
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原稿めちゃくちゃ時間かかるの、一回これくらいの密度でざっくり書いて、ザクザク削って、一部増やして密度に緩急付けて、削って、もっかい書き直してるからだとはわかっている。
轟音と共にサイバトロン星へ着陸した宇宙船の存在は、メガトロンのマイクロホンにも届いていた。
事前の通信内容と同じく、乗っているのは『コグを取り戻した』トランスフォーマー数機と彼らが不時着した星に住む有機生命体の使者数名。
そこに本来あるはずの、オプティマスプライムの名前はない。
重々しく開いた宇宙船のハッチから、乗務員達が降りてくる。メガトロンをスコープに納めた途端に大きく手を振った黄色い機体は無視をして、メガトロンは有機生命体の使者を見た。
人間という、コグ無しと同じ大きさしか持たず環境適応スーツやアーマーと呼ばれる外部パーツがなければサイバトロン星の土も踏めない存在は、しかし真っ直ぐに、メガトロンの灯す赤い光を見つめ返していた。
「あれが……」
続々と集まってくるトランスフォーマー達には聞こえない、もはや振動とも呼べない声で、メガトロンは呟いた。
「あれがお前の答えなのか? オプティマスプライム」
◆
センチネル『プライム』が労働ボットからコグを奪ったのは、階級制度による社会構造を構築するためだけではない。
そうと気付いたのはコグを身体に植え付けたクインテッサ星人が現れて、全てが終わった後のことだった。
「オプティマスプライム」
本来ならば医務室にいるはずの背中を記録保管庫で見つけ、メガトロンは舌打ちをした。
「何をしている」
「メガトロン」
声をかける前から気付いていただろうに、オプティマスプライムと呼ばれた『コグ無し』は、驚いたようにホログラムから顔を上げた。
「見てわからないのか? 記録の確認だ」
「お前の仕事じゃない」
「だが、禁止されてもいない」
流れ続けるホログラムを一時停止して、オプティマスプライムは肩をすくめた。
「あんなことがあったんだ。まだ他のみんなは今忙しいだろう? どうせ誰かがやらなくちゃいけないことだ。俺の空き時間はたっぷりある。座ったままできる仕事なんて、今の俺にピッタリじゃないか」
「必要ない」
「おいおい必要がないなんてそんなこと、」
「お前がする必要がないと言ったんだ。オプティマスプライム!」
大型機特有の発声回路により、オプティマスプライムのそばの空気がビリビリと震える。自機の2倍はあろうかという機体に詰め寄られた上に、至近距離で叫ばれて、それでもオプティマスプライムは微動だにしなかった。それどころかやれやれといったように首を振る。
「それを決めるのはお前じゃない」
「じゃあ誰が決めるっていうんだ?」
「オプティマスプライム?」
睨み合う二人のやり取りに割り込むように、底抜けに明るい声がオプティマスプライムを呼んだ。二機が声のした方へ視線を向ければ、棚と棚の間からB-127の顔が現れる。彼はその青い視覚センサに二機を認めると、パッと顔を輝かせた。
「あ、メガトロンもここにいたんだ! 良かった〜。探したよオプティマスプライム。どこに行ってもいないんだもん。一生見つからないかと思った。検査の時間を過ぎても医務室に来ないからドクターが怒ってたけど、どうする? 俺と一緒に医務室に行く? それとも無視する?」
「無視」
「医務室だ」
オプティマスプライムの言葉に被せるように、メガトロンが断言した。
「早く連れていけ」
「Bはお前の部下じゃないだろ」
「お前がそんなナリの今は、俺の『預かり』だ」
「けれど、俺とお前なら俺の方が権限が強い」
「お前も俺の『預かり』だということを忘れるな」
「アイアコンでは個々の自由と権利が何よりも優先される」
打てば響くようなオプティマスプライムの言葉に、メガトロンの眉間の皺が深くなる。その口が再度開きかけたのを見て、オプティマスプライムは「おっと」とその掌をメガトロンの前に突き出してみせた。
「言いたいことはわかる。病人はその自由を制限されることがある。だろう? だが、それに対する答えも俺は持っている。このままだと平行線だ。仕方がない。B!」
「なに?」
「今の話を聞いていただろう?」
「聞いてたよ。けど、わざと口を挟まなかった。わかるだろ? 俺も政府の一員だけど、その辺の仕事はプライムの領域で、俺には何が何だかさっぱりだ」
「意見を聞きたいだけだ。君はドクターの要請に答えない俺を探しにきて、医務室に行くか無視するか聞いだろう? どっちが良いと思う?」
「医務室に決まってるだろう」
「メガトロン。今君には聞いていない。B、どっちだ?」
「それくらいならわかるよ! そうだなあ……」
他の者なら萎縮してしまいそうな赤と青の視線を受けながら、オプティマスプライムと同じ『コグ無し』であるB-127は、良いことを思いついた。とでもいうように、指をパチンと鳴らしてみせた。
「とりあえず医務室には行って、検査内容が気に入らなきゃ無視する。それでどう?」
トランスフォーマーの魂であるスパークを身体の隅まで行き渡らせ、持ち主の秘めた力を引き出すのがコグの力だ。数千サイクルをかけてその力を解析し、コグを身体に埋め込むことによって強化されたクインテッサ星人は、一時サイバトロン星を崩壊の危機にまで追い詰めた。しかしただ一機のプライムとしてサイバトロン星を支え続けたオプティマスプライムが、この星の危機を救った。
その身に宿したマトリクスをプライマスへ返還することにより、星の崩壊を食い止めたのだ。
「ひどい。このデータも改竄されてる」
モニターに映ったコードを見て、エリータ1は顔を顰めた。それはセンチネルの統治時代に作られた貨物列車の運行状況と貨物リストのデータだ。
「見ただけでわかる杜撰な改竄。こんな時間に列車が出発したことなんてない。誰がこんな適当な仕事をしたの?」
カセットを床に投げ捨てて、エリータ1は言った。
「次はどれ?」
「はいよ。とりあえず新しい番号のものを10枚。目視検査済。ウイルスチェック済」
エリータ1のデスクにカセットを積んで、オプティマスプライムは大きな排気をこぼした。
「記録保管庫のプライムやマトリクスに関する伝承も、見える範囲にあったものはすべて書き換えられていたんだ。こっちも秘密裏に管理されたデータ以外、全部改竄されると思った方が良い」
「その秘密裏に管理されたデータがあるかどうか分からないから、ローラー作戦で確認してるんでしょ」
エリータ1がカセットを接続部に差し込んで、データをモニターに映す。もう流れ作業になった方法で内容と改訂履歴を確認し「これは貨物でなくて労働ボット用電車の運行記録」と呟いた。
「あるはずだ。クインテッサにささげる列車の中身がエネルゴンではなく汚染された金属だった。なんてことがあれば、アイアコンはとっくの昔に滅んでる。偽装を続けるにはどこかで貨物列車の運行計画と貨物の中身を管理する必要がある」
「簡単に言ってくれるけど、それが見つからないからみんな苦労してるんじゃない。あなたもぼうっとしてないで作業に加わったら?」
「そうしたいのは山々なんだが、先週メガトロンと医務室に睨まれたばっかりでね。次やったらベッドにくくりつけるって言われてるんだ」
ウイルスチェック用に作られた簡易機器にカセットを差し込みながら、オプティマスプライムは本日何度目かの重たい排気を吐き出した。
「作業に熱中して時間を忘れるからでしょ」
エリータ1は彼を振り返らずに言った。
「そうじゃなかったら起動したばかりの子供の手も借りたいくらいよ。いっそ検査のついでにタイマーかアラームを体に仕込んでもらったら?」
「コグの代わりに?」
「笑えない」
椅子を回転させてオプティマスプライムに向き合うと、エリータ1は立ち上がった。
「笑えないわよオプティマスプライム。あなたがマトリクスをプライマスに返還した戦いで、私が何をクインテッサに狙われたか知ってて言ってる?」
エリータ1の美しい指先が、オプティマスプライムの胸の穴を指差した。己よりずっと大きくなった——正確にはオプティマスプライムが小さくなったのだが——彼女に、オプティマスプライムは白旗を上げた。
「悪かった。君に当たるような真似をした」
先のクインテッサとの戦いにて、クインテッサはトランスフォーマー達のコグを奪うと同時に、明らかに特定のトランスフォーマーへの執着を見せた。
エリータ1、B-127、そしてメガトロン。
——プライムのコグを持つ者たち。
「言葉には気をつけてよね」
カン。と音を立ててオプティマスプライムの肩を叩くと、エリータ1は再度データに向き直った。
「あなたの失言は置いておくけど、早くセンチネルがどれだけのコグをクインテッサに渡していたのかを突き止めなくちゃ。奪われたコグや逃した『コグ持ち』以上に兵力がいるかどうかを掴まないと」
「常に緊張感は保ってられないし、エネルゴンも湧き出なくなったから余計な労力は使えないからな」
「今のが自虐なら殴るけど」
「そんなことはありませんエリータ1!」
いつかの鉱山時代を思い起こさせる返答に、エリータ1はひとつ排気をこぼした。
「良いから次のを持ってきて」
「はいはいっと。……ん?」
新しい記録媒体を持ってこようと棚の間を覗き込んだオプティマスプライムは、しかしふと動きを止めた。見慣れない棚が壁沿いに増えていたからだ。
「エリータ、この棚は?」
「棚?」
「知らない棚が増えてる」
新たなカセットを床に放って、エリータ1はオプティマスプライムの指差す方を見た。彼女からは死角になる位置に置かれた棚だが「ああ、それのこと」と納得したようにデスクに向き直った。
「それならBがどこかから見つけて持ってきた棚よ。データ探しに古い記録媒体を整理したいって言ったら、俺見たことある! ってトランスフォームも出来ないのに地下五十階まで走って行って、その辺の針金で自分の体に括り付けて持ってきたの。つまりは地下のもの」
オプティマスプライムは棚に歩み寄り、エリータ1へと声を張り上げた。
「中身は?」
「少しだけ確認したけど、貨物情報じゃないことだけは確かよ。見て分かるように記録媒体がセンチネルの統治時代よりずっと古い。ただ媒体自体は壊れてなさそうだしBがせっかく持ってきてくれたものだから置いてあるだけ。元親衛隊あたりに見せたら何か知ってるかもしれないけど、今はそんな暇がないから後回しにされてる」
「へえ……」
オプティマスプライムは棚に歩み寄ると、記録媒体を手に取った。確かに他のものよりも古びているが、置かれていた場所が良かったのか一目で分かる劣化はない。
何枚か手に取って媒体に振られた番号を眺めていると、今度はエリータ1が声を張り上げた。
「それよりも、あなた時間は確認してるの?」
「時間?」
見つけ出したナンバー1を己の機体の隙間に滑り込ませ、オプティマスプライムは首を傾げた。
「そう。時間」
エリータ1は言った。
「今のあなたはトランスフォーム出来ないんだから、遅れないように検査に行くならもうここを出なきゃ間に合わないわよ。あのドクター達なら数サイクル前まで患者を増やし続けたメガトロンの手を借りてでも、今度こそ本当にあなたをベッドにくくりつけるでしょうね」
センチネル『プライム』にとって労働ボットからコグを抜くことは、社会構造の維持とクインテッサとの取引材料を手に入れる一挙両得の方法だったのだろう。
だが彼がアイアコン全住民の半分にまで増えた『コグ無し』のコグのほとんどを、クインテッサ星人に捧げず地下に保管していたのは何故なのか。まだコグの解析が終わっておらずクインテッサ星人がエネルゴン以上の価値をコグに見出していなかったのか、それとも別の理由なのか。
死してなお、センチネルが残し、植え付けたものはクインテッサ星人の触手のようにサイバトロン星に絡みつき、この星を蝕んでいる。
「どーぞ」
ノックが二回。入室の許可を得る合図に、オプティマスプライムはベッドに寝転がったまま答えた。彼がコグ無しとなってから作られた検査室は医務室内の隣にあり、検査道具とベッド、そして緊急修復ポッドで面積の半分が埋まっている。
ドアが開く音にホログラムから顔を上げたオプティマスプライムは、ほんの少しだけ驚きを表情に乗せた。なにせ現れたのがメガトロンだったからだ。控えめなノックの音を思い出し、らしくないな。と感じたが、なにもドクター達に睨まれているのはオプティマスプライムだけではない。大方ドクター達に厳しく言いふくめられたのだろうと予想をつけて、彼はホログラムを消すとベッドから起き上がりメガトロンと向き合った。
「ご用は?」
「聞きたいことがある」
威圧感を滲ませたメガトロンの言葉に、思ったより早かったな。とオプティマスプライムは内心苦笑する。
「何を?」
「お前が企んでいること、全てだ」
メガトロンが、オプティマスプライムの顔を覗き込む。
——嘘も誤魔化しも許さない。
そう告げる赤から、オプティマスプライムは目を逸さなかった。
しばし無言で見つめ合う。先に口を開いたのは、オプティマスプライムだった。
「……企むというほど、道筋が見えている計画じゃないさ」
そう言って、彼は己とメガトロンを隔てるように、ホログラムを展開した。
メガトロンが眉を寄せる。
「これは?」
「13プライム統治時代の研究内容一覧と、その成果物」
「13プライムの?」
プライマスより生み出されし最初のトランスフォーマー達であり、数千サイクルもの間、クインテッサ星人と戦い、この星を統治した者たち。
天井まで映し出されたホログラムをメガトロンは見上げた。その姿を一瞥し、オプティマスプライムは続ける。
「知っての通り、この時代の多くのものがセンチネルにより失われた。記録、伝承、プライムやマトリクスに関する研究や、13プライムについて書かれた個人の日記まで」
「こんなもの、どこから」
「Bさ」
「Bだと?」
「ああ、あいつが棚一台分の記録媒体を見つけ出した」
手元のボタンを操作し、オプティマスプライムが地下50階の光景を映し出した。
「どうやらセンチネルが己の汚い欲望を地下41階から50階に隠したように、彼に賛同しないトランスフォーマーも同じことを考えたようでね」
今はもう動いていない溶鉱炉の反対側。B-127のお友達がいた部屋の壁が、一部凹んでいる。
「棚と解らないように裏面を向け、熱で記録媒体が劣化しないよう溶鉱炉から離れた場所に棚が設置してあった」
それを聞いて、いっそ呆れたようにメガトロンが言った。
「あいつはどうやってそんなものを見つけたんだ」
「お友達にトランスフォームを見せて棚の背面を壊したらしい。記録媒体を見つけた時は驚いたが、当時はアイアコンの再建で忙しかったからな。とりあえず簡単に直して今まで忘れていたと言っていたよ」
「……スティーブといい、どうなってんだあいつは」
「あの部屋が異質なのかもしれないがな」
「で?」
メガトロンは、地下50階の映像を消したオプティマスプライム見た。
「お前はその研究成果で、何をしようとしている?」
うっすらと、メガトロンの言葉を聞いて、オプティマスプライムは笑った。
「……古い研究だ。元親衛隊に確認するまでもなく、時代遅れだったり間違った方向に向かっていた研究も多い。一方で、今でも
▲たたむ