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No.3267
#ソンエリ
再掲
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夢と分かる夢を見た。
夢の中でソーンズは不惑を過ぎており、隣にいるエリジウムにも同じだけの過ぎ去った年月がその身体に刻まれていた。
二人が歩いていたのはロドスの中だ。幾度も修繕と改装が繰り返されてはいたが、絶え間ない人の声と、動き続ける機械音は以前と変わることがない。
視線に気付いたのだろう。エリジウムが「どうかした?」と首を傾げたのでソーンズは「これは夢か?」と問いかけた。エリジウムがニコリと笑う。
「夢とも言えるし、そうでないとも言えるね」
ゴポリ。とエリジウムが口を開く度に音がした。
「この世界は幾重にも折り重なり混じり合い、多数の分岐は過去を過ぎ去り未来を追い越している。そして海は折り重なった世界の中で生きるもの死んだものが最後に流れ着く場所だよ。彼らが海の水に溶けて、海の水を飲んだ君に、君の知識から君の望む姿を見せたのではなく、過去あるいは未来を見せているとは思わなかったのかい? 原石が告げる予言のように」
「あいにく、今回が初めてじゃないからな」
笑う相手に、ソーンズはため息を吐いてみせた。
「ケルシーからすでに知識は得ている。お前は過去で、俺はもう未来にいる」
「ああ、なるほど。君の分岐は随分と遠いところにあるみたいだ」
「だから、もう俺が望む夢はとうに見飽きているんだ。お前に頼らなくとも良い」
絶望は、すでに何度も味わっている。
鉱石病。不治の病。ソーンズの親友を蝕むもの。
オペレーターとしてロドスに所属していた彼の時間が少ないことを、もうソーンズはずっと前から、彼を友人と定めた時から知っていた。ふとしたきっかけからスペクターのことを知り、ケルシーに相談をしたことさえある。スペクターに施したことと、逆のことはできないかと。己が海の水を飲んだことを彼女は診断結果などから勘づいていて、そしてソーンズに知識を与えた。同時に選択をするのは自分自身だと突き放されたような、多くを背負う彼女に、新たなものを背負わせたような気もした。
しかしそれらはもう過ぎ去った過去だ。
そしてその頃よく見た夢が、未来でも、あの男が生きている夢だった。
目の前の存在を見る。不惑を過ぎた男の目尻に笑い皺が刻まれている。よく笑う男であった。笑い皺はその証明だ。
「俺はもう、この先を知っている」
「僕はいらない?」
「ああ」
時間と大海の流れは絶えず、そこに浮かぶ人々も、一箇所に留まることはない。
ソーンズの答えに、夢の中のエリジウムは「そっか」と告げた。「残念だね」という言葉に、泡が弾ける音が重なる。
パチン。という音と共に、目が覚めた。
「起きてください、ソーンズ先生」
肩を揺らされて、ソーンズはゆるゆると瞼を開けた。蛍光灯の眩しさに目が眩む。やがて開けた視界に映ったのは。最近ロドスに入ってきたばかりの若いオペレーターだ。
彼はソーンズが覚醒したことを知ると、机の上に小包を置いた。
「お疲れのところすみませんが、お届けものです。サインください」
「……ああ」
一瞬、夢の続きかと思い動きが遅れた。不惑をすぎ知命が見える年になると、どうにも色んなことに区別が付きづらくなって困ると頭を掻きながらペンを持ち宛名を確認してサインを入れれば、若いオペレーターがありがとうございます。と笑った。
そして仕事は済んだはずなのに、彼はソーンズの荷物を指差して「トランスポーターの方からですか?」と問いかけてきた。
「鉱石病患者さんの支援のために、いろんな場所に行ってらっしゃる方からなんですよね」
と、告げるその好奇心が抑えきれない様子に苦笑する。
ロドスが鉱石病の治療のために、さまざまな場所にオペレーターを派遣していることは周知だが、それもまだ全世界とは言い難い。時にはたどり着くことさえこんな場所に出向くこともあり、そうした場合、安全な行路の確保や情報収集のため、所属するオペレーターに情報提供や荷物の搬送を頼むことがある。
そしてソーンズがロドス所属のトランスポーターの一人と懇意で、そのトランスポーターから僻地の様々な品や映像送ってもらっては、ロドス内で共有しているのは有名だ。
「……そうだな。今でもロドスの特殊部隊と兼業しているが、ここ数年はトランスポーター業の方が多いか」
何せ、僻地にも進んで行きたがるやつだから。と告げながら、ソーンズはわざと彼の目の前で小包を開けてやる。そこに入っていたのは、記録媒体だ。
「電波の通じる場所なら通信を寄越してくるが、そうもいかない場所もある。そういう場所は、こうして記録を送ってくる」
─ ─君にも見て欲しいんだよ。
そう笑った男の顔を覚えている。様々な危機を乗り越え、様々な犠牲を払い、それでも完治ができない鉱石病にかかりながら明日を生きる男は、ソーンズが若き頃に見ていた夢の姿などとは全く違う姿で今を生きている。
己の夢を叶えた姿で生きている。
「写っているのは、山か、川か、砂漠か」
あるいは海か、はたまた全く違う景色か。それは蓋を開けるまでわからない。
「見てみるか?」
と聞けば、若いオペレーターはこくこくと首を縦に振る。その姿にやはり笑いながら、ソーンズは記録媒体を己のPCに繋げた。
青い空。白い雲。どこまでも広がる広大な山脈。吐き出した息は白く、昔携えていたものよりずっと軽く作られた旗が、風に揺れる。
戦友からの通信が入り『極地』の名を持つ男は鉱石病の薬を飲み込むと立ち上がった。
その目に映るのは、夢よりも夢のような現実だ。
「さあて、次はどこに行くのかな!」
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2024.11.12 19:43
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再掲
夢と分かる夢を見た。
夢の中でソーンズは不惑を過ぎており、隣にいるエリジウムにも同じだけの過ぎ去った年月がその身体に刻まれていた。
二人が歩いていたのはロドスの中だ。幾度も修繕と改装が繰り返されてはいたが、絶え間ない人の声と、動き続ける機械音は以前と変わることがない。
視線に気付いたのだろう。エリジウムが「どうかした?」と首を傾げたのでソーンズは「これは夢か?」と問いかけた。エリジウムがニコリと笑う。
「夢とも言えるし、そうでないとも言えるね」
ゴポリ。とエリジウムが口を開く度に音がした。
「この世界は幾重にも折り重なり混じり合い、多数の分岐は過去を過ぎ去り未来を追い越している。そして海は折り重なった世界の中で生きるもの死んだものが最後に流れ着く場所だよ。彼らが海の水に溶けて、海の水を飲んだ君に、君の知識から君の望む姿を見せたのではなく、過去あるいは未来を見せているとは思わなかったのかい? 原石が告げる予言のように」
「あいにく、今回が初めてじゃないからな」
笑う相手に、ソーンズはため息を吐いてみせた。
「ケルシーからすでに知識は得ている。お前は過去で、俺はもう未来にいる」
「ああ、なるほど。君の分岐は随分と遠いところにあるみたいだ」
「だから、もう俺が望む夢はとうに見飽きているんだ。お前に頼らなくとも良い」
絶望は、すでに何度も味わっている。
鉱石病。不治の病。ソーンズの親友を蝕むもの。
オペレーターとしてロドスに所属していた彼の時間が少ないことを、もうソーンズはずっと前から、彼を友人と定めた時から知っていた。ふとしたきっかけからスペクターのことを知り、ケルシーに相談をしたことさえある。スペクターに施したことと、逆のことはできないかと。己が海の水を飲んだことを彼女は診断結果などから勘づいていて、そしてソーンズに知識を与えた。同時に選択をするのは自分自身だと突き放されたような、多くを背負う彼女に、新たなものを背負わせたような気もした。
しかしそれらはもう過ぎ去った過去だ。
そしてその頃よく見た夢が、未来でも、あの男が生きている夢だった。
目の前の存在を見る。不惑を過ぎた男の目尻に笑い皺が刻まれている。よく笑う男であった。笑い皺はその証明だ。
「俺はもう、この先を知っている」
「僕はいらない?」
「ああ」
時間と大海の流れは絶えず、そこに浮かぶ人々も、一箇所に留まることはない。
ソーンズの答えに、夢の中のエリジウムは「そっか」と告げた。「残念だね」という言葉に、泡が弾ける音が重なる。
パチン。という音と共に、目が覚めた。
「起きてください、ソーンズ先生」
肩を揺らされて、ソーンズはゆるゆると瞼を開けた。蛍光灯の眩しさに目が眩む。やがて開けた視界に映ったのは。最近ロドスに入ってきたばかりの若いオペレーターだ。
彼はソーンズが覚醒したことを知ると、机の上に小包を置いた。
「お疲れのところすみませんが、お届けものです。サインください」
「……ああ」
一瞬、夢の続きかと思い動きが遅れた。不惑をすぎ知命が見える年になると、どうにも色んなことに区別が付きづらくなって困ると頭を掻きながらペンを持ち宛名を確認してサインを入れれば、若いオペレーターがありがとうございます。と笑った。
そして仕事は済んだはずなのに、彼はソーンズの荷物を指差して「トランスポーターの方からですか?」と問いかけてきた。
「鉱石病患者さんの支援のために、いろんな場所に行ってらっしゃる方からなんですよね」
と、告げるその好奇心が抑えきれない様子に苦笑する。
ロドスが鉱石病の治療のために、さまざまな場所にオペレーターを派遣していることは周知だが、それもまだ全世界とは言い難い。時にはたどり着くことさえこんな場所に出向くこともあり、そうした場合、安全な行路の確保や情報収集のため、所属するオペレーターに情報提供や荷物の搬送を頼むことがある。
そしてソーンズがロドス所属のトランスポーターの一人と懇意で、そのトランスポーターから僻地の様々な品や映像送ってもらっては、ロドス内で共有しているのは有名だ。
「……そうだな。今でもロドスの特殊部隊と兼業しているが、ここ数年はトランスポーター業の方が多いか」
何せ、僻地にも進んで行きたがるやつだから。と告げながら、ソーンズはわざと彼の目の前で小包を開けてやる。そこに入っていたのは、記録媒体だ。
「電波の通じる場所なら通信を寄越してくるが、そうもいかない場所もある。そういう場所は、こうして記録を送ってくる」
─ ─君にも見て欲しいんだよ。
そう笑った男の顔を覚えている。様々な危機を乗り越え、様々な犠牲を払い、それでも完治ができない鉱石病にかかりながら明日を生きる男は、ソーンズが若き頃に見ていた夢の姿などとは全く違う姿で今を生きている。
己の夢を叶えた姿で生きている。
「写っているのは、山か、川か、砂漠か」
あるいは海か、はたまた全く違う景色か。それは蓋を開けるまでわからない。
「見てみるか?」
と聞けば、若いオペレーターはこくこくと首を縦に振る。その姿にやはり笑いながら、ソーンズは記録媒体を己のPCに繋げた。
青い空。白い雲。どこまでも広がる広大な山脈。吐き出した息は白く、昔携えていたものよりずっと軽く作られた旗が、風に揺れる。
戦友からの通信が入り『極地』の名を持つ男は鉱石病の薬を飲み込むと立ち上がった。
その目に映るのは、夢よりも夢のような現実だ。
「さあて、次はどこに行くのかな!」
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