No.3517

ウルデプ書きかけ


 性愛に恋愛が付随するとは思わないし、その逆もまた然り。俺ちゃんの短くもない人生では両方を伴った関係の方が少なくて、それどころか愛すらないのにセックスした相手の数が抜きん出てる。なにせ一夜限りの関係は楽だ。たまに相手選びを失敗したけど大抵は気持ちいいだけで夜が終わる。とんだビッチだって? その通りだよクソが。
 けれどヴァネッサと出会ったことで、そんな相手の数も増えることはなくなった。口では何と言おうと手が勝手に誰かの尻を触ろうと、最後に欲しいのは彼女だけという気持ちにさせられた。その気持ちに彼女が同じ気持ちを返してくれる幸せも、眠れない冬の日に、ただ寄り添って体温を分け合えば良い夜があることを知ったのも彼女がいたからだ。これは不幸自慢じゃない。幸福自慢だ。間違えんなよ!
 でも知っての通り、俺は自分勝手にヴァネッサを突き放した。そしてだからといって、以前のような浮き名を流すこともできなかった。なにせこのアボガドフェイスだ。中古車販売の仕事をしていても、ヒーファクのおかげで身体だけはこのプリティなお尻を筆頭になかなか良い具合に仕上がっていたけど、身体目当ての相手は顔を見れば化け物を見たかのように去っていく。デッドプールのマスクを被っていたら結果は違ったろうが、ピーターのロッカーという聖域の中のそれを、性欲処理の為に返して貰うのはさすがの俺ちゃんも気が引けた。それに『デッドプール』なんかの相手をしたい奴なんて十中八九変態だ。画面の向こうに自分がどう映っているかくらい知ってるよ。とはいえアボガドフェイスを見た上で一晩の相手をしても良いって奴も、男女ノンバイナリーそれ以外の性別問わず、なかなか良い趣味の奴らだった。
 だからいつのまにか相手を探すことはほとんどなくなって、一人遊びが増えていった。愛がないなら一人でも何人でも味付けが違うだけのインスタントな行為だと気付いたことも一因だ。相手の好みに左右されない分、自分の好きなトッピングを好きなだけかけられるのも一人遊びの良いところ。他人の体温とか他人と深く繋がれてるような幻想。というトッピングが欲しい時は、そうもいかなかったけど。
 なにはともあれお気に入りの性具がクローゼットの中の段ボール箱から溢れそうになった頃、恋人が出来た。
 晴天の霹靂だった。
 マーベルジーザスの俺ちゃんが言うんだから相当だ。
 だって相手はあのウルヴァリンだ。オープニングで俺が掘り起こして骨を武器にしたこの世界のウルヴァリンじゃない。俺が別のアースから連れてきた黄色いスーツのウルヴァリン。
 さすがに信じられなくて冗談めかして煽り倒したら爪でぶっ刺されて記憶が飛んだ。おかげで3回同じやり取りをしたらしい。らしいというのは前述の通り俺は記憶が飛んでそんなこと忘れているからだ。3回目で記憶が飛んでいることに気付いて頭を刺すのをやめた。とはクズリちゃんことローガンの言。3回目でようやく気付いたのかよ遅くない?もう呆けちゃったのおじいちゃん。だからって人の胸を刺すのはやめろこのクソジジイ!と血の海の中で暴れ回ったのは俺。
 100年の恋も冷めるようなやり取りだが、終わった時には俺たちは恋人になっていた。負けた方が勝った方の言うことを聞く。という今時ハイスクールの生徒でもやらないような賭けに乗って、俺が見事に負けたからだ。売り言葉に買い言葉。『デッドプール』だからって賭けに乗った俺が間違っていた。まさか頭以外バラバラに切り刻まれるとは思ってねえよ。
 本当に俺ちゃんのこと好きなのこのジジイ? というかアルが気にするから血を流したいって珍しいこと言い出したなとは思ったけど、こうなることを見越して依頼終了後にTVAからこのケイブへ送り届けて貰ったの? と疑問は次々と浮かんでは消えていったが、再生が早くなるように自分がバラバラにした身体をせっせと集め、俺が教えた方法で血濡れの部屋を掃除し、こんな方法を使って悪かったな。と告げる大男の姿を見ていたらそれらの疑問はいつのまにかどうでも良くなった。
 俺の世界を救った最高のウルヴァリン。
 それだけで恋して愛するには十分だった。
 切り刻んだのは一生かけて償わせるが。
 ▲たたむ

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