No.3830

ウルデプのサンプルにしようと思ってる部分。短い話だからそんなサンプルに出せないんだよな。
来週入稿するから今週サンプル上げようと思ってたけど、イベント参加してないのにサンプル出すのはあまりにも迷惑行為……。


 ウェイド・ウィンストン・ウィルソンは、二〇八本の骨を持っている。世界の危機とヒーリングファクターによって頻繁に数を変える彼の骨は、ここ数日、その本数で落ち着いていた。二〇八本のうち二〇六本は彼のもので、ゴシップガールを観るともう一本増える。そして最後の一本は、ウェイドの中指の先端に癒着していた。
 左手の中指だ。
 罵倒と共に天に突き立てる指であり、手を伸ばした時、最も遠くまで届く指でもある。その指に癒着した骨は、誰のものでもなかった。少なくとも、今は。元の持ち主は死んでいるし、ウェイドは他人の骨なんて欲しくない。それなのに彼がこの骨を持っているのは、世界の危機に関係があるからだ。
 仰向けのまま、黴臭いベッドの上であくびをしたウェイドは、ぐるりと部屋の中を見渡した。窓からは朝日が差し込んでいる。そして誰もいない部屋の天井に目を向けると、視線を一点で止めた。
「あー。ダメダメ。それ以上引いたら見えちゃう。何がって? 分かるだろ」
 彼は第四の壁の向こうへ告げた。画面にはウェイドの腰から上と、グローブを付けた左手が映っていることだろう。裸の身体とグローブを付けた左手だ。黒いグローブの生地は左手首から下が溶け落ちていて、その他は何もない。
 ウェイドは起き上がると、ため息をついた。
「オーケー。分かってるよ。俺だって別に裸を見せつけたい訳じゃない。下手すりゃレーディングを上げなきゃならないし、セックスする相手にだって、急に見せたら傷つけることがある。でも気の効かない俺の相棒とTVAは、この身体が治っていくことに注目しすぎて、俺が変質者になる可能性を全く考えちゃいなかった。馬鹿だろう? よって、俺ちゃんは悪くない」
 そう言って、ウェイドはグローブを勢い良く引き抜いた。抜け殻になったグローブは、一瞥もされずに床に捨てられる。出てきたのは全身と同じく瘡瘍のある左手と、中指に癒着した骨である。朝日を浴びて鈍く光る骨は、明らかにリン酸カルシウムとタンパク質を主体として出来たものではない。金属でできた骨だ。
 アダマンチウムでできた骨だ。
「マーベルにどれだけアダマンチウムの骨格を持つヒーローがいるか知ってる? ウルヴァリンにその変異体。あとは映画にも出てきたセイバートゥース。骨だけならそいつらから磁石で引っこ抜かなくても、小道具さんに頼めば作ってくれる。脅しても良い。でもこれは正真正銘ウルヴァリンの骨だ。それも、このアースのウルヴァリン」
 ウェイドは躊躇いもなく癒着した骨を自分の指から引き剥がした。血が飛んで、小さな悲鳴がウェイドから上がる。思ったより痛かった。と舌打ちを溢した彼は、血や皮膚や肉がこびりついた骨の表面を指で拭うと、朝日に掲げた。
「見える?」
 そこには名前が刻んであった。ヒュー・ジャックマンでもライアン・レイノルズでもない。
 ウルヴァリンの本名が。
「いくらウルヴァリンでも骨の一本一本にまで自分の名前を刻んでるわけがないって? そりゃそうだ。これは俺ちゃんが刻んだんだから。何故かって? それを説明するには少しだけ時間を貰わなきゃならない。俺ちゃんが別のアースのアンカーになって、最終的に左手首を残して全裸になった話だ。早く聞きたい? まあ待てって、物事には準備がいる。だから、そう」
 ウェイドは部屋の扉の目をやった。
 足音が聞こえ、部屋の前でぴたりと止まる。さほど時間をおかず、扉が開いた。
 現れたのは紙袋を抱えたローガンだ。
「ウェイド。着替えと食事を持ってきたぞ」
 それを見て、ウェイドは第四の壁の向こう側へ笑ってみせた。
「着替えと食事の後に、また」

▲たたむ

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