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No.739
#アガガプ
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悪魔学校を卒業した後、ガープは魔界中を飛び回るようになった。アガレスと会うたびに、違う地方の土産を持ってくる。今日渡されたのは赤い花の刺繍されたハンカチだ。今度はどこに行ってたの? と聞けば、南の島でござる。と返ってくる。SNSで知り合った悪魔に会いに行ったらしい。在学中から料理が得意だったガープは、ことあるごとに料理の写真をSNSに載せていて、そこから交流を得ることも多かった。
「暑かった?」
「寒かったでござる」
魔界は広い。所変われば気候も変わる。こちらは過ごしやすい季節だが、南は近年稀にみる寒波に襲われて、天気予報でも雪のマークが途切れることなく並んでいる。
「吹雪で一週間も出航が遅れて、危うく今日中に帰れなくなるところだったでござる」
「猛吹雪だったってニュースで言ってたけど、旅行とかぶって残念だったね」
「その分、色んな悪魔たちと話すことができて楽しかったでござる。悪魔は送れないにしろ、魔術で近隣の島や土地と荷の受け渡しは出来るようになっていたでござるから、向こうで過ごすのに支障はなかったでござるし」
ガープの前向きさは大人になっても変わらなかった。むしろ様々な困難を悪魔学校で乗り越えたためか、めったなことでは動じない。身体を動かすこともよく知らない他者と混じって過ごすことも厭わないので、今回の旅行でも島の住人に混じって雪かきや雪下ろしをし、帰る頃にはすっかりと島に馴染んで、様々な島の名産品を送られすらしたという。
「あ、でもそのハンカチは拙者が自分で選んで買ったものでござるよ」
「知ってるよ」
ガープはお仲間を大事にする。大事なお仲間から貰ったものを、他者に渡すはずがない。食べ物ならば味わって食べ、消耗品ならば最後まで大事に使い、置き物の類ならば己の部屋にきちんと並べ、時折手にとって眺めるのだ。お仲間はガープの野望そのものであり宝物であった。
そしてアガレスはそんなガープのお仲間の1人であって、最初の1人でもあった。学生時代は学校で過ごす大半の時間を共に過ごしていたが、今はもうひと月に一度会うことができれば良い方だ。なにせ卒業後、魔界中を飛び回っているのはガープだけではない。家系能力の希少さと汎用性の高さによって、アガレスには在学中から多数のスカウトがあった。考え抜いた末に魔王候補であるイルマの下に就いたが、今では彼のサポートとして各地を巡らなければならなくなっている。昨日までは北の戦場にいて、燃え広がる戦火から逃れてきた悪魔を保護していた。アガレスの家系能力は仮設の住居を作ることに適しているが、悪魔が生きるためには住居のみがあっても他が足りず、いつまた戦火が広がるかわからない。それでもすべきことをするしかなく、気がつけばこの家に帰って来たのも3ヶ月ぶりのことだった。
「おかえりでござる」
帰宅したアガレスを迎えたのがガープだった。イルマから連絡が来ていたという。アガレスはもしものことに備えてガープに家の合鍵を渡しており、好きに使っていいと伝えてあった。ガープはその合鍵を使って時々アガレスの家のメンテナンスをして、アガレスの帰宅を聞きつけると各地の土産と共に出迎える。
アガレスは、ガープが様々な場所に様々なお仲間を増やしていて、その悪魔たちを大事に思っているのを知っていた。ガープのお仲間にはアガレスが先日保護したような戦火に追われた悪魔も、災害で家を失った悪魔も、もうこの魔界にはおらず、二度と会えない悪魔がいることも知っている。魔王候補はいても魔王不在の魔界はいまだ混沌としていて、ガープの大事なお仲間はふとした時に数を減らす。アガレスはそれを悲しいと思う。アガレスはガープのように多くを大事には思えない。けれど大事なものをなくしたくないという気持ちは知っていた。
だから冗談でも、アガレスはガープにずっとこの家にいてくれとは言わないし、言えなかった。けれどそれを悟ったかのように、ガープはアガレスが帰宅する時、こうしてアガレスの家にいてくれる。だからアガレスはガープへ代わりの言葉を送るのだ。
「ただいま」
アガレスの言葉に、ガープがもう一度おかえりを告げた。次にアガレスがこの家を出て行く時、ガープはいってらっしゃいを告げるのだろう。それはガープからアガレスへの信頼でもあった。魔界を飛び回るガープが、唯一信じて待つ相手がアガレスだった。だからアガレスは、次にこの家から出て行く時、ガープに貰ったハンカチを携えて、いつものように彼にいってきますを告げるだろう。
それが2人にとっての愛だった。
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2024.02.03 00:31
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悪魔学校を卒業した後、ガープは魔界中を飛び回るようになった。アガレスと会うたびに、違う地方の土産を持ってくる。今日渡されたのは赤い花の刺繍されたハンカチだ。今度はどこに行ってたの? と聞けば、南の島でござる。と返ってくる。SNSで知り合った悪魔に会いに行ったらしい。在学中から料理が得意だったガープは、ことあるごとに料理の写真をSNSに載せていて、そこから交流を得ることも多かった。
「暑かった?」
「寒かったでござる」
魔界は広い。所変われば気候も変わる。こちらは過ごしやすい季節だが、南は近年稀にみる寒波に襲われて、天気予報でも雪のマークが途切れることなく並んでいる。
「吹雪で一週間も出航が遅れて、危うく今日中に帰れなくなるところだったでござる」
「猛吹雪だったってニュースで言ってたけど、旅行とかぶって残念だったね」
「その分、色んな悪魔たちと話すことができて楽しかったでござる。悪魔は送れないにしろ、魔術で近隣の島や土地と荷の受け渡しは出来るようになっていたでござるから、向こうで過ごすのに支障はなかったでござるし」
ガープの前向きさは大人になっても変わらなかった。むしろ様々な困難を悪魔学校で乗り越えたためか、めったなことでは動じない。身体を動かすこともよく知らない他者と混じって過ごすことも厭わないので、今回の旅行でも島の住人に混じって雪かきや雪下ろしをし、帰る頃にはすっかりと島に馴染んで、様々な島の名産品を送られすらしたという。
「あ、でもそのハンカチは拙者が自分で選んで買ったものでござるよ」
「知ってるよ」
ガープはお仲間を大事にする。大事なお仲間から貰ったものを、他者に渡すはずがない。食べ物ならば味わって食べ、消耗品ならば最後まで大事に使い、置き物の類ならば己の部屋にきちんと並べ、時折手にとって眺めるのだ。お仲間はガープの野望そのものであり宝物であった。
そしてアガレスはそんなガープのお仲間の1人であって、最初の1人でもあった。学生時代は学校で過ごす大半の時間を共に過ごしていたが、今はもうひと月に一度会うことができれば良い方だ。なにせ卒業後、魔界中を飛び回っているのはガープだけではない。家系能力の希少さと汎用性の高さによって、アガレスには在学中から多数のスカウトがあった。考え抜いた末に魔王候補であるイルマの下に就いたが、今では彼のサポートとして各地を巡らなければならなくなっている。昨日までは北の戦場にいて、燃え広がる戦火から逃れてきた悪魔を保護していた。アガレスの家系能力は仮設の住居を作ることに適しているが、悪魔が生きるためには住居のみがあっても他が足りず、いつまた戦火が広がるかわからない。それでもすべきことをするしかなく、気がつけばこの家に帰って来たのも3ヶ月ぶりのことだった。
「おかえりでござる」
帰宅したアガレスを迎えたのがガープだった。イルマから連絡が来ていたという。アガレスはもしものことに備えてガープに家の合鍵を渡しており、好きに使っていいと伝えてあった。ガープはその合鍵を使って時々アガレスの家のメンテナンスをして、アガレスの帰宅を聞きつけると各地の土産と共に出迎える。
アガレスは、ガープが様々な場所に様々なお仲間を増やしていて、その悪魔たちを大事に思っているのを知っていた。ガープのお仲間にはアガレスが先日保護したような戦火に追われた悪魔も、災害で家を失った悪魔も、もうこの魔界にはおらず、二度と会えない悪魔がいることも知っている。魔王候補はいても魔王不在の魔界はいまだ混沌としていて、ガープの大事なお仲間はふとした時に数を減らす。アガレスはそれを悲しいと思う。アガレスはガープのように多くを大事には思えない。けれど大事なものをなくしたくないという気持ちは知っていた。
だから冗談でも、アガレスはガープにずっとこの家にいてくれとは言わないし、言えなかった。けれどそれを悟ったかのように、ガープはアガレスが帰宅する時、こうしてアガレスの家にいてくれる。だからアガレスはガープへ代わりの言葉を送るのだ。
「ただいま」
アガレスの言葉に、ガープがもう一度おかえりを告げた。次にアガレスがこの家を出て行く時、ガープはいってらっしゃいを告げるのだろう。それはガープからアガレスへの信頼でもあった。魔界を飛び回るガープが、唯一信じて待つ相手がアガレスだった。だからアガレスは、次にこの家から出て行く時、ガープに貰ったハンカチを携えて、いつものように彼にいってきますを告げるだろう。
それが2人にとっての愛だった。▲たたむ