No.3342

Dオラ進捗


「D-16」
 名前を呼ばれ、D-16は足を止めた。振り返ればエリータ1が立っている。彼は驚きながらコグ無しにしては大きな体を壁に寄せた。コグ無しの居住エリアに向かう廊下であれば、2機がすれ違うのにやっとの広さしかない。
「やあエリータ1。何か用でも?」
 D-16は努めて明るく彼女に呼びかけた。D-16がこのエネルゴン採掘区画で働き始めてから、まだ夜は20回程しか巡って来ていない。新入りの札が取れない身であれば、チームリーダーをも任される機体に話しかけられれば、何かヘマをしたかと恐ろしくなる。
 しかしエリータ1の口から出て来たのは、思いもよらない名前だった。
「あなた、オライオンパックスを見なかった?」
「パックスを?」
 D-16は表情を取り繕うのも忘れて聞き返した。オライオンパックスはD-16と同時期にこの区画へ送られて来た『問題児』だ。仕事はそつなくこなすものの、規則破りの常習犯で、納得のいかないことがあればコグ有にも喧嘩を売るし、立ち入り禁止エリアにも忍び込む。
 本来あまり近づきたくないタイプだが、不思議とD-16とオライオンは馬があった。出会ってからのこの短い間にも、彼の問題行動を庇い、隠し、一緒に怒られてやったこともある。
 今日はシフトの関係で別行動だったが、またあいつが問題を起こしたのか。と顔を顰めれば、エリータ1が「今回、彼に否はないわ」と首を振った。
「私は彼の問題行動に辟易してるけれど、否のない部分まで責めたり、ましてや私を庇ってしたことを『勝手にやったこと』だと突き放したりもしたくない」
「パックスが、エリータ1を庇った?」
「ええそう。助かったわ。腹が立つことにね」
 エリータ1は腕を組んで頷いた。そして素早く周りを見回すと、声を顰めてD-16に告げた。
「エネルゴン精製所で、輸送管理を担ってるコグ有2機の疑惑は知ってる?」
「あ、ああ。噂くらいは」
 ほんの少しだけ身を屈めてD-16は頷いた。
 ボット達を含めたアイアコンシティ全てのエネルギー源はエネルゴンだ。13プライムを失いマトリクスが行方不明になった後、湧き出なくなったエネルゴンはセンチネルプライムの指揮の下、厳重に管理されている。しかしコグ無しが採掘し精製したそれが、流通の要であるアイアコンシティの中央区に送られるまでに盗まれているという噂があった。その首謀者とされているのが、件の輸送管理を行っているコグ有り2機だ。
「ノルマからすれば誤差で収まる範囲だけれど、長期間続けば噂にもなるわ。おまけに1度、その疑いを輸送列車の積み下ろし担当のコグ無しになすりつけている」
 D-16はわずかに目を見開いた。マトリクスが失われたことにより生まれ始めたらしいコグ無しが、一部の螺子が緩んだコグ有りからどのような扱いを受けているか、彼は身をもって知っている。
「その2機がパックスに何を?」
「パックスじゃないわ。狙われたのは私」
 落ち着きなさい。と言うように、エリータ1がD-16の肩を叩いた。カン。と金属同士がぶつかる軽い音が、狭い廊下で反射した。
「でも、安心できないのは確かね」
「何が……」
「ウイルスよ」
 ため息と共に吐き出された言葉に、D-16の顔が歪んだ。
「ウイルス汚染されたモジュールを、管理者権限で読み取りさせられたの。多分、そう。いわゆる『気持ち良くなれる』ウイルスを、ね」



 ボット達が稼働を止めないために、注意を払わなければならないものは、アイアコン5000でドクター達に苦言を呈されるトランスフォーマー達以上に存在し、毎サイクル更新される。
 その中でも特に身近で危険な脅威のひとつがウイルスだ。ボット達のプロセッサに侵入し、様々な悪意を働き増殖する。脅威度はウイルスの種類によって様々で、ボット達が生まれながらに持つアンチウイルス機能やセキュリティ機構で即座にブロックされるものもあれば、クインテッサにより作られたとも言われている、プロセッサのコアを止めるようなものさえある。
 とはいえほとんどのウイルスには対策が取られており、スパークにまで影響を及ぼすものも発見されていないが、しかし毎サイクルのように新しいウイルスが発見されるのが1番の問題でもあった。ボット達、それもトランスフォーマーの機能に詳しいコグ有り達が、ウイルスを作り出しているからだ。
 ▲たたむ

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