2025年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
目指したのは「三丁目の夕日」×「HiGH&LOW」アクション監督・谷垣健治が挑んだ香港・九龍城砦バトルの裏側! https://www.cinematoday.jp/news/N0146953
天地創造デザイン部 - 蛇蔵/鈴木ツタ/たら子 / 案件60 | モーニング・ツー
[ https://comic-days.com/episode/316112896... ]
天デ部が最新話以外無料になってる!
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ウルデプ進捗
酒の席での戯れだ。「好きだよ」と言われて「俺もだ」と返した。ヒーリングファクターがあるため酔い辛く覚めやすいとはいえ、俺たちにもアルコールは効く。その日のウェイドは俺に釣られて度数の高い酒をよく飲んでいた。久しぶりに過去の夢を見て、酒を飲まずにはいられなかった俺に釣られて、だ。
「あー、くそっ! 最悪の仕事だっ、た……」
一人ソファに腰掛けて、早朝の暗い部屋にいた俺が、タイミング良く――あるいは悪く――傭兵の仕事から帰ってきたウェイドの目にどう映ったのかはわからない。
「おはようクズリちゃん。俺がいない間元気してた? ちょっと毛並みが悪い? でも髪までこんな勃ってるなら大丈夫。って、いつもの寝癖かこれ」
わからないが、俺を目にしてすぐ、汚れたスーツのまま一方的に俺に絡んだウェイドは、邪険にする俺にも構わずいつもの軽口を捲し立て、日が昇ったあたりでシャワーを浴び、起きてきたアルとローラとメリーとウェイド自身と、そして俺の朝食を作って食卓に並べた。
「いただきます!」
魔法のようだった。
カーテンが開かれた部屋は明るく、普段は俺のマグカップがある位置に、酒瓶が置いてある以外はいつもの食卓と同じだった。酒瓶にローラの視線が注がれていたが、何も言われることはなかった。
「なんだい飲んでるのかい? それなら私にも」
「ダメダメ! 俺たちが夢の国に住所を移した以上、超えられない壁がある。わかる?」
「勝手に人の家を移動させておいて良い気なもんだね。わかった。あんたの淹れ方のせいで酸っぱくて喉越し最悪。後味は苦いだけで旨味がないインスタントコーヒーの代わりに、白砂糖が欲しいんだけどね」
「だからダメだって言ってんだろクソ!」
横でこんなやり取りをしていたのだ。聞くのもバカバカしくなったに違いない。全くもってローラの教育に悪い。だが本人は小さな声で「反面教師……」と呟いていた。もちろん俺だけでなくアルとウェイドの耳にも届いていた。
「そうだよこんなバカ似るんじゃないよ。そっちの自分は飲んでるくせに哀れな年寄りに白砂糖一袋買ってこないケチな男にもね」
「薬中が何か言ってる。ローラはこんな大人にはならないもんね。デザートもあるよ。メリたんには俺ちゃん特製無糖ヨーグルト」
「パッケージから出しただけのヨーグルトで手作り感を出すんじゃないよ」
「ちゃんとバナナも入ってるっての!」
「切っただけ」
「オーケー。アルにはデザートなし!」
気が付けば朝食を食べている間、ほとんど酒は減らなかった。
けれど身支度を整えたアルとローラとメリー、そしてウェイドがそれぞれの用事で外へ出かけていってしまってはダメだった。
先程まで騒がしかった部屋に、ぽつんと自分一人がいる。
無意識に背が丸まって、窓から差し込む日光も景色も全てが脳を通り過ぎていく。
視覚嗅覚聴覚触覚、感じている全てが遠のいて、ただ脳裏を流れる映像だけが鮮明だ。
今更どうすることもできないのに、思考だけが同じ場所を回っている。
それを止める為に酒を飲む。
「ただいまー」
だからさほど時間も経たぬうちに、両手に食材を抱えたウェイドが開いた窓から入ってきた時にはギョッとした。
「どうして窓から入ってくる!」
「両手が塞がってるから」
思わず叫んだが、逆に首を傾げられて反論する気がなくなった。酒瓶を煽る俺を横目にキッチンへ向かい、食材を片付けるウェイドはご機嫌だった。
あるいはそう見えるだけかもしれなかった。
鼻歌を歌っているかと思えば幻覚と喋っている。楽しそうにステップを踏んでいると思ったら暴言を吐く。「仕方ないな」と許した次の瞬間に相手の眉間を撃ち抜いている。
そんな『デッドプール』の感情を推し量るなんて出来はしない。
だからウェイドが食べ切れないほどのつまみを机に並べ、俺の隣に座ったのも単なる気まぐれだとしか思わなかった。
「そっちのワインちょーだい。拒否権はないからな。ビーフシチュー用に買ったのだろそれ」
無言でワインボトルを手渡した。ウェイドは手早く栓を抜いてワイングラスに半分ほど注いだ後、チーズとサラミの乗った皿を自分の前に引き寄せるとテレビを付けた。
「観たい映画は?」
あるわけがない。このアースでどうだったかは知らないが、元いたアースで映画が大衆に広まったのはたった百年ほど前だ。存在は知っていたが酒に溺れていた俺が新しいものに見向きするはずがなく、この家に来て初めて味わった娯楽である。
黙って画面を見つめていれば、興味がないと受け取られたのか、それとも初めから俺の答えなど期待していなかったのか、画面が勝手に変わり、迷うようにいくつかのタイトルを経た後で、俺でも知っているシェイクスピアの劇のタイトルが浮かび上がった。どうやら実際の舞台で上演された劇を撮影した映像らしい。
「……こうした映画もあるんだな」
演劇に興味はなかったが、ミュータントということを隠してチャールズや他のX―MENと一緒に観劇に出かけた事はある。
ウェイドは解説をするつもりだったようだが、無駄話ばかりする口にチーズとサラミを皿ごと突っ込んだら黙った。映画はともかく観劇の基本は『お静かに』だ。
劇は終始面白かった。
原本から大胆なアレンジを加えられた脚本。映像化されることを意識した、しかし舞台ならではの演出。洗練された衣装。
何より驚いたのは、主演がミュータントであったことだ。
隠してはいる。けれど分かった。他の演者にもミュータントがいる。彼らは当たり前のように演技をし、他の役者と対等に渡り合い、舞台の上でライトを浴びていた。
いつのまにか、背中に汗をかいていた。
ローラの入学の為に恵まれし子らの学園を訪れた時も、そこで過去の友人達と同じ顔をしたミュータントと出会った時も、ウェイドの大切な九人の友人達と初めて会った時も、自分は同じ汗をかいていた。
ここは違う時間軸だ。
意識せぬように酒を煽る。
映画にもインターバルは用意されており、幕が降りてすぐ、俺はとっておきの酒を部屋から持ってきた。このアースで暮らし初めた頃に買った酒だ。安さと度数で選んだもので、味は端から眼中にない。買ってすぐ、ローラがTVAに連れられてこの家にやってきた為、飲むタイミングを逃していた。
ウェイドやアルはともかく、ローラに親と同じ顔のミュータントが酒に溺れる姿を見せたくはない。
栓を抜いた途端にキツいアルコール臭がする。一気に煽ろうとしたところで、ウェイドが声を上げた。
「わーお。ローたんそんなのどこに隠し持ってたの? 天井裏かベッドの下? ママエロ本見つからないから安心しちゃってた。これから劇の後半なのにレギュレーション違反すぎるだろ。没収」
「俺の酒だ」
「嫌? ならあんたの胃からアルコールの匂いが取れるまで出てってもらう。そのきっつい匂いが今いない奴らにバレないはずがない」
その通りだった。ローラとメリーは言うまでもなく、アルも鼻が効く。
「ほら、栓閉めて。後でその酒使ってカクテル作ってあげるから」
言うが早いが酒瓶を取り上げられ、代わりに缶ビールが手渡される。ウェイドが画面を指差した。
「幕が上がるよ」
思わずテレビ画面を見た。スピーカーからワッと拍手の音がする。『お喋りはここまで』の合図でもあった。
陳腐な言葉だが、幕が上がった瞬間に空気が変わる。視線が引き寄せられる。握った缶ビールが凹み、溢れたビールが俺の手を濡らした。慌てて手を舐めれば「サービスシーン?」とウェイドが首を傾げるので、思わずその眉間を刺した。余計に煩くなったが、劇始まるからと酒を取り上げた本人が余所見をしているのだ。滅多刺しにしなかっただけ優しいだろう。
空になった缶を置いて、新しい缶を手に取った。ウェイドの好きな日本の銘柄で、喉越しは良いが強い酒に慣れた身には軽い。味も薄く感じてしまう。
仕方なく、机の上の生ハムに手を伸ばした。一口で食べ、口の中の塩気が薄まる前にビールを煽る。隣でウェイドも同じ缶を開けていた。いつもなら酒の味の感想を言い合って軽口の応酬が始まるが、あいにく画面の中の劇が気になって、口を開く気にはなれなかった。
机の上に空き缶が並べられていく。皿の上のつまみが減っていく。
主演がミュータントであることを意識する度に俺の背中に冷たい汗が流れたが、俺はこんな状態でも、画面から目を離すことができなかった。
劇がクライマックスに差し掛かる。
息を忘れて画面を見つめ、画面に映る主演の指先の動きや吐息までもを見逃しさぬように目を凝らす。
主演が最後の台詞を言い終え、動きを止めた。
同時に物語の時が止まり、静けさに満ちた舞台に幕が降りる。
どこかから拍手の音がして、それは割れんばかりに大きくなった。
「ブラボー!」
ウェイドそう叫んで拍手をしながらソファから立ち上がった。
「いやー。良かった! 流石はナショナルシアターライブ。他の映画の二倍近くの値段で映画館で流してることはある。おまけにDVDやブルーレイもない。もちろん配信もなーし! じゃあどうやって見てるかって? 見れることにすれば良い。紙の上ってのは書いたことが全て。あるって書いたらあるし、ないって書いたものはない」
「なんの話だ」
「ご都合主義もしくは俺ちゃんがマーベルジーザスって話。意味がわかんないって? じゃあそんなローたんにも分かるものをあげよう。そこにあるコップ取って」
▲たたむ
酒の席での戯れだ。「好きだよ」と言われて「俺もだ」と返した。ヒーリングファクターがあるため酔い辛く覚めやすいとはいえ、俺たちにもアルコールは効く。その日のウェイドは俺に釣られて度数の高い酒をよく飲んでいた。久しぶりに過去の夢を見て、酒を飲まずにはいられなかった俺に釣られて、だ。
「あー、くそっ! 最悪の仕事だっ、た……」
一人ソファに腰掛けて、早朝の暗い部屋にいた俺が、タイミング良く――あるいは悪く――傭兵の仕事から帰ってきたウェイドの目にどう映ったのかはわからない。
「おはようクズリちゃん。俺がいない間元気してた? ちょっと毛並みが悪い? でも髪までこんな勃ってるなら大丈夫。って、いつもの寝癖かこれ」
わからないが、俺を目にしてすぐ、汚れたスーツのまま一方的に俺に絡んだウェイドは、邪険にする俺にも構わずいつもの軽口を捲し立て、日が昇ったあたりでシャワーを浴び、起きてきたアルとローラとメリーとウェイド自身と、そして俺の朝食を作って食卓に並べた。
「いただきます!」
魔法のようだった。
カーテンが開かれた部屋は明るく、普段は俺のマグカップがある位置に、酒瓶が置いてある以外はいつもの食卓と同じだった。酒瓶にローラの視線が注がれていたが、何も言われることはなかった。
「なんだい飲んでるのかい? それなら私にも」
「ダメダメ! 俺たちが夢の国に住所を移した以上、超えられない壁がある。わかる?」
「勝手に人の家を移動させておいて良い気なもんだね。わかった。あんたの淹れ方のせいで酸っぱくて喉越し最悪。後味は苦いだけで旨味がないインスタントコーヒーの代わりに、白砂糖が欲しいんだけどね」
「だからダメだって言ってんだろクソ!」
横でこんなやり取りをしていたのだ。聞くのもバカバカしくなったに違いない。全くもってローラの教育に悪い。だが本人は小さな声で「反面教師……」と呟いていた。もちろん俺だけでなくアルとウェイドの耳にも届いていた。
「そうだよこんなバカ似るんじゃないよ。そっちの自分は飲んでるくせに哀れな年寄りに白砂糖一袋買ってこないケチな男にもね」
「薬中が何か言ってる。ローラはこんな大人にはならないもんね。デザートもあるよ。メリたんには俺ちゃん特製無糖ヨーグルト」
「パッケージから出しただけのヨーグルトで手作り感を出すんじゃないよ」
「ちゃんとバナナも入ってるっての!」
「切っただけ」
「オーケー。アルにはデザートなし!」
気が付けば朝食を食べている間、ほとんど酒は減らなかった。
けれど身支度を整えたアルとローラとメリー、そしてウェイドがそれぞれの用事で外へ出かけていってしまってはダメだった。
先程まで騒がしかった部屋に、ぽつんと自分一人がいる。
無意識に背が丸まって、窓から差し込む日光も景色も全てが脳を通り過ぎていく。
視覚嗅覚聴覚触覚、感じている全てが遠のいて、ただ脳裏を流れる映像だけが鮮明だ。
今更どうすることもできないのに、思考だけが同じ場所を回っている。
それを止める為に酒を飲む。
「ただいまー」
だからさほど時間も経たぬうちに、両手に食材を抱えたウェイドが開いた窓から入ってきた時にはギョッとした。
「どうして窓から入ってくる!」
「両手が塞がってるから」
思わず叫んだが、逆に首を傾げられて反論する気がなくなった。酒瓶を煽る俺を横目にキッチンへ向かい、食材を片付けるウェイドはご機嫌だった。
あるいはそう見えるだけかもしれなかった。
鼻歌を歌っているかと思えば幻覚と喋っている。楽しそうにステップを踏んでいると思ったら暴言を吐く。「仕方ないな」と許した次の瞬間に相手の眉間を撃ち抜いている。
そんな『デッドプール』の感情を推し量るなんて出来はしない。
だからウェイドが食べ切れないほどのつまみを机に並べ、俺の隣に座ったのも単なる気まぐれだとしか思わなかった。
「そっちのワインちょーだい。拒否権はないからな。ビーフシチュー用に買ったのだろそれ」
無言でワインボトルを手渡した。ウェイドは手早く栓を抜いてワイングラスに半分ほど注いだ後、チーズとサラミの乗った皿を自分の前に引き寄せるとテレビを付けた。
「観たい映画は?」
あるわけがない。このアースでどうだったかは知らないが、元いたアースで映画が大衆に広まったのはたった百年ほど前だ。存在は知っていたが酒に溺れていた俺が新しいものに見向きするはずがなく、この家に来て初めて味わった娯楽である。
黙って画面を見つめていれば、興味がないと受け取られたのか、それとも初めから俺の答えなど期待していなかったのか、画面が勝手に変わり、迷うようにいくつかのタイトルを経た後で、俺でも知っているシェイクスピアの劇のタイトルが浮かび上がった。どうやら実際の舞台で上演された劇を撮影した映像らしい。
「……こうした映画もあるんだな」
演劇に興味はなかったが、ミュータントということを隠してチャールズや他のX―MENと一緒に観劇に出かけた事はある。
ウェイドは解説をするつもりだったようだが、無駄話ばかりする口にチーズとサラミを皿ごと突っ込んだら黙った。映画はともかく観劇の基本は『お静かに』だ。
劇は終始面白かった。
原本から大胆なアレンジを加えられた脚本。映像化されることを意識した、しかし舞台ならではの演出。洗練された衣装。
何より驚いたのは、主演がミュータントであったことだ。
隠してはいる。けれど分かった。他の演者にもミュータントがいる。彼らは当たり前のように演技をし、他の役者と対等に渡り合い、舞台の上でライトを浴びていた。
いつのまにか、背中に汗をかいていた。
ローラの入学の為に恵まれし子らの学園を訪れた時も、そこで過去の友人達と同じ顔をしたミュータントと出会った時も、ウェイドの大切な九人の友人達と初めて会った時も、自分は同じ汗をかいていた。
ここは違う時間軸だ。
意識せぬように酒を煽る。
映画にもインターバルは用意されており、幕が降りてすぐ、俺はとっておきの酒を部屋から持ってきた。このアースで暮らし初めた頃に買った酒だ。安さと度数で選んだもので、味は端から眼中にない。買ってすぐ、ローラがTVAに連れられてこの家にやってきた為、飲むタイミングを逃していた。
ウェイドやアルはともかく、ローラに親と同じ顔のミュータントが酒に溺れる姿を見せたくはない。
栓を抜いた途端にキツいアルコール臭がする。一気に煽ろうとしたところで、ウェイドが声を上げた。
「わーお。ローたんそんなのどこに隠し持ってたの? 天井裏かベッドの下? ママエロ本見つからないから安心しちゃってた。これから劇の後半なのにレギュレーション違反すぎるだろ。没収」
「俺の酒だ」
「嫌? ならあんたの胃からアルコールの匂いが取れるまで出てってもらう。そのきっつい匂いが今いない奴らにバレないはずがない」
その通りだった。ローラとメリーは言うまでもなく、アルも鼻が効く。
「ほら、栓閉めて。後でその酒使ってカクテル作ってあげるから」
言うが早いが酒瓶を取り上げられ、代わりに缶ビールが手渡される。ウェイドが画面を指差した。
「幕が上がるよ」
思わずテレビ画面を見た。スピーカーからワッと拍手の音がする。『お喋りはここまで』の合図でもあった。
陳腐な言葉だが、幕が上がった瞬間に空気が変わる。視線が引き寄せられる。握った缶ビールが凹み、溢れたビールが俺の手を濡らした。慌てて手を舐めれば「サービスシーン?」とウェイドが首を傾げるので、思わずその眉間を刺した。余計に煩くなったが、劇始まるからと酒を取り上げた本人が余所見をしているのだ。滅多刺しにしなかっただけ優しいだろう。
空になった缶を置いて、新しい缶を手に取った。ウェイドの好きな日本の銘柄で、喉越しは良いが強い酒に慣れた身には軽い。味も薄く感じてしまう。
仕方なく、机の上の生ハムに手を伸ばした。一口で食べ、口の中の塩気が薄まる前にビールを煽る。隣でウェイドも同じ缶を開けていた。いつもなら酒の味の感想を言い合って軽口の応酬が始まるが、あいにく画面の中の劇が気になって、口を開く気にはなれなかった。
机の上に空き缶が並べられていく。皿の上のつまみが減っていく。
主演がミュータントであることを意識する度に俺の背中に冷たい汗が流れたが、俺はこんな状態でも、画面から目を離すことができなかった。
劇がクライマックスに差し掛かる。
息を忘れて画面を見つめ、画面に映る主演の指先の動きや吐息までもを見逃しさぬように目を凝らす。
主演が最後の台詞を言い終え、動きを止めた。
同時に物語の時が止まり、静けさに満ちた舞台に幕が降りる。
どこかから拍手の音がして、それは割れんばかりに大きくなった。
「ブラボー!」
ウェイドそう叫んで拍手をしながらソファから立ち上がった。
「いやー。良かった! 流石はナショナルシアターライブ。他の映画の二倍近くの値段で映画館で流してることはある。おまけにDVDやブルーレイもない。もちろん配信もなーし! じゃあどうやって見てるかって? 見れることにすれば良い。紙の上ってのは書いたことが全て。あるって書いたらあるし、ないって書いたものはない」
「なんの話だ」
「ご都合主義もしくは俺ちゃんがマーベルジーザスって話。意味がわかんないって? じゃあそんなローたんにも分かるものをあげよう。そこにあるコップ取って」
▲たたむ
ウルデプ新刊サンプル①
酒の席での戯れだ。「好きだよ」と言われて「俺もだ」と返した。ヒーリングファクターがあるため酔い辛く覚めやすいとはいえ、俺たちにもアルコールは効く。その日のウェイドは俺に釣られて度数の高い酒をよく飲んでいた。久しぶりに過去の夢を見て、酒を飲まずにはいられなかった俺に釣られて、だ。
「あー、くそっ! 最悪の仕事だっ、た……」
まだ日も昇らぬ早朝から一人ソファに腰掛けて、暗い部屋でアルコールを摂取していた俺が、タイミング良く――あるいは悪く――傭兵の仕事から帰ってきたウェイドの目にどう映ったのかはわからない。
「おはよーハニー! 俺ちゃんがいない間元気してた?」俺を目にしてすぐ、そう言って汚れたスーツのまま一方的に俺に絡んだウェイドは、邪険にする俺にも構わずいつもの軽口を捲し立て、日が昇ったあたりでシャワーを浴びた。そして部屋着に着替えたところで寝室から出てきたメリーに餌をやり、起きてきたアルとローラとウェイド自身と、俺の朝食を作って食卓を囲んだ。
「いただきます!」
魔法のようだった。
カーテンが開かれた部屋は明るく、普段は俺のマグカップがある位置に、酒瓶が置いてある以外は全くいつもの食卓と同じだった。その酒瓶にローラの視線が注がれているのには気付いていたが、何も言われることはなかった。
「なんだい飲んでるのかい? それなら私にも」
「シャラップ! 俺たちが夢の国に住所を移した以上、超えられない壁がある。わかる?」
「勝手に人の家を移動させておいて良い気なもんだね。わかった。あんたの淹れ方が悪いから酸っぱくて喉越し最悪、後味は苦いだけ。のインスタントコーヒーが最悪だから、白砂糖が欲しいんだけどね。鼻から吸うのが」
「だからダメだって言ってんだろこのクソババア!」
横でこんなやり取りをしているのだ。口を開くのもバカバカしくなったに違いない。全くもってローラの教育に悪いが、本人は小さな声で「反面教師……」と呟いていた。もちろん俺だけでなくアルとウェイドの耳にも届いていた。
「そうだよこんなケチくさい男に似るんじゃないよ。そっちの自分は飲んでるくせにこの哀れな年寄りに砂糖一袋買ってこないバカにもね」
「薬中が何か言ってる。嫌だね〜。ローラはこんな大人にはならないもんね。デザートもあるよ。メリたんには俺特製の無糖ヨーグルト」
「パッケージから出しただけのヨーグルトで手作り感を出すんじゃないよ」
「ちゃんとバナナも入ってます!」
「切っただけ」
「キィー!」
気が付けば朝食を食べている間、ほとんど酒は減らなかった。
けれど身支度を整えたアルとローラとメリー、そしてウェイドがそれぞれの用事で外へ出ていってしまってはダメだった。
先程まで騒がしかった部屋に、ぽつんと自分一人がいる
無意識に背が丸まって、窓から差し込む日光も景色も全てが目を通り過ぎていく。
視覚嗅覚聴覚触覚、感じている全てが遠のいて、ただ脳裏を流れる映像だけが鮮明だ。
今更どうすることもできないのに、思考だけが同じ場所を回っている。
それを止める為に酒を飲む。
「ただいまー!」
だからさほど時間も経たぬうちに、両手に食材を抱えたウェイドが開いた窓から入ってきた時はギョッとした。
▲たたむ
酒の席での戯れだ。「好きだよ」と言われて「俺もだ」と返した。ヒーリングファクターがあるため酔い辛く覚めやすいとはいえ、俺たちにもアルコールは効く。その日のウェイドは俺に釣られて度数の高い酒をよく飲んでいた。久しぶりに過去の夢を見て、酒を飲まずにはいられなかった俺に釣られて、だ。
「あー、くそっ! 最悪の仕事だっ、た……」
まだ日も昇らぬ早朝から一人ソファに腰掛けて、暗い部屋でアルコールを摂取していた俺が、タイミング良く――あるいは悪く――傭兵の仕事から帰ってきたウェイドの目にどう映ったのかはわからない。
「おはよーハニー! 俺ちゃんがいない間元気してた?」俺を目にしてすぐ、そう言って汚れたスーツのまま一方的に俺に絡んだウェイドは、邪険にする俺にも構わずいつもの軽口を捲し立て、日が昇ったあたりでシャワーを浴びた。そして部屋着に着替えたところで寝室から出てきたメリーに餌をやり、起きてきたアルとローラとウェイド自身と、俺の朝食を作って食卓を囲んだ。
「いただきます!」
魔法のようだった。
カーテンが開かれた部屋は明るく、普段は俺のマグカップがある位置に、酒瓶が置いてある以外は全くいつもの食卓と同じだった。その酒瓶にローラの視線が注がれているのには気付いていたが、何も言われることはなかった。
「なんだい飲んでるのかい? それなら私にも」
「シャラップ! 俺たちが夢の国に住所を移した以上、超えられない壁がある。わかる?」
「勝手に人の家を移動させておいて良い気なもんだね。わかった。あんたの淹れ方が悪いから酸っぱくて喉越し最悪、後味は苦いだけ。のインスタントコーヒーが最悪だから、白砂糖が欲しいんだけどね。鼻から吸うのが」
「だからダメだって言ってんだろこのクソババア!」
横でこんなやり取りをしているのだ。口を開くのもバカバカしくなったに違いない。全くもってローラの教育に悪いが、本人は小さな声で「反面教師……」と呟いていた。もちろん俺だけでなくアルとウェイドの耳にも届いていた。
「そうだよこんなケチくさい男に似るんじゃないよ。そっちの自分は飲んでるくせにこの哀れな年寄りに砂糖一袋買ってこないバカにもね」
「薬中が何か言ってる。嫌だね〜。ローラはこんな大人にはならないもんね。デザートもあるよ。メリたんには俺特製の無糖ヨーグルト」
「パッケージから出しただけのヨーグルトで手作り感を出すんじゃないよ」
「ちゃんとバナナも入ってます!」
「切っただけ」
「キィー!」
気が付けば朝食を食べている間、ほとんど酒は減らなかった。
けれど身支度を整えたアルとローラとメリー、そしてウェイドがそれぞれの用事で外へ出ていってしまってはダメだった。
先程まで騒がしかった部屋に、ぽつんと自分一人がいる
無意識に背が丸まって、窓から差し込む日光も景色も全てが目を通り過ぎていく。
視覚嗅覚聴覚触覚、感じている全てが遠のいて、ただ脳裏を流れる映像だけが鮮明だ。
今更どうすることもできないのに、思考だけが同じ場所を回っている。
それを止める為に酒を飲む。
「ただいまー!」
だからさほど時間も経たぬうちに、両手に食材を抱えたウェイドが開いた窓から入ってきた時はギョッとした。
▲たたむ
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